リーダーシップ111(ワンワンワン)

パネルディスカッション[2]

未来を拓くリーダーとは?

尾崎:3名のパネリストのお話を聞いて、やはり時代は大きく動いているというのが共通認識として出てきたと思います。その中で重要なご指摘は、未来は今の延長線上に描いても、そうならない可能性のほうが大きいということだったと思います。そうはいっても、全くわからない未来が待っているわけではなくて、やはり方向性というのはあるわけで、その方向性の一つを内永さんはグローバル化と、非常に重要な切り口でお見せいただいたような気もします。そういう未来に対して我々はどう対応していけばいいのかということのヒントが幾つか既に出始めていました。1つは個の重要性。もう一つは自分の軸の重要性。それから、全てを理解してから未来に向かうというのではなくて、仮説を持って走りながら進んでいくスピードの重要性、というのもあったと思います。
 そこで、次のテーマである「未来を切り拓くにはどうすればいいか」というところに入っていきたいと思います。このフォーラム自体はリーダーシップ111が主催するもので、リーダーシップフォーラムです。そこで、未来を切り拓くためにはどんなリーダーシップが必要なのか、それはどうやって養成することができるだろう。またお一人お一人からお話を伺えればと思います。その前にリーダーシップについて一言、私のコメントをつけ加えさせていただきます。
 リーダーシップというと皆さんどうお考えになられますか。実は日本では、リーダーシップというのは生まれつき備わっているものだという考えが多いですね。したがって、「私にはリーダーシップがありません」などと簡単におっしゃる方がおられます。さて、みなさんはいかがでしょう。リーダーシップというのは生まれつきだと思われる方ってどのぐらいいらっしゃいますか。(挙手を求める)では逆にそうではないと思われる方はどうでしょう?(挙手を求める)意外といらっしゃいますね。ここはやっぱり非常に意識の高い方が多いですね。そのとおりなのです。
 実は、リーダーシップというのは、音楽やスポーツの能力と似たところがあって、生まれつきの能力もありますけれども、それ以上にあとから養い育むものなのです。ですから、その観点できょう、この未来を切り拓くというときにリーダーシップが必要だというお話になって、ではどういうリーダーシップが必要かということを今から伺いますけれども、それは決して私とは関係ない話だということではなくて、ほとんど全ての人が工夫をし、学び、努力をする中で育み、養っていくことができるのだという観点で、お話を伺いたいと思います。
 それでは、まず漆様から。

漆:どういうリーダーシップが育っているかということで、DVDをこの日のためにつくってきました。生徒の口を借りてですが、DVD、お願いします。
 うちの学校では、これは生徒に聞いたのですけれども、ジャンケンと推薦はなし。基本的に立候補なのです。このビデオも卒業式の前の日に拾ったインタビューです。

(ビデオ上映)

ちょっと親ばかなのでこのビデオにジーンと来てしまうのですけれども……。
 内永さんから世界が小さくなっていく時代だというお話があって、本当にそれを感じていまして、これからの子というのは、人とかかわる力というのを国境を越えてつくっていかないといけないのかなと考えているのです。そのために学校は何をしているかというと、何も教えていないのですね。ただ、場をつくっています。チームで何かをする。しかもチーム戦で競争する場をたくさんつくっているんです。そのことによって「失敗」と「もめ事」を提供していると思います。「失敗はチャレンジの結果、もめ事はチームで何かをするときの結果」と思っていまして、入学前からこれが嫌な人は受験しないでくださいというふうに言い続けています。その結果、子供たちがこういった子に育っているのかなと……。
 私の考えるリーダーシップというのは、人とかかわって仕事をしていくことができる。そのためには、内永さんがおっしゃっていたリーダーシップ、ビジョンを示すということがまず1つ目です。2つ目がチャレンジ、その目標のためにチャレンジする姿を見せられる。一緒にチャレンジできる。3つ目が弱みをシェアできるということだと思うのですね。自分の弱いとことか苦しいこともシェアして、そしてお互いにカバーし合ってやっていく。安心できる場をつくっていく。というのが特に女子校におけるリーダーシップというふうな気がしていますし、そういう子に育ってほしいなと思っています。

内永:今のお話を伺っていて、すごく感激したのですよね。すごく感激したのですけれども、私が思うリーダーシップってちょっと違うかなという感じがしました。私が思うリーダーシップというのは、もうちょっと強烈ですね。私自身が自分の思いというか、こういうことをやりたいと思うことに対しては、結構誰もとめられないみたいなところがあって、その結果、周りにえらい迷惑をかけているのですけれども、それをリーダーシップというのかはよくわかりません。よくわかりませんけれども、一つの目的に向かっていろいろな人を巻き込んで、結果を出し続ける。うまくいかなくても私はあきらめないですね。絶対にあきらめない。失敗したらまたもう1回やるし、それから、なぜできなかったのかということをすごく考えるので、そういう意味ではあんまり人間的にいいリーダーではないかもしれません。あんまりそばへ寄りたくないリーダーだと思います。
 リーダーっていうのは何人かの人たちをまとめて一つの方向に向かって引っ張っていくというイメージを持つのですけれども、実はこれからの時代、何人かの人というのが場合によっては見えない人であったりもするわけですよね。情報も昔はいろいろな形で集めて、分析して、いろいろなことを手間暇かけてやらないとできなかった。ですから、そのために人もいたし、いろいろなサポーターも必要だったのですが、これからはネットを駆使すると、かなりのことができます。
 ある方が、これからのリーダーってアグリゲーターだって仰いました。アグリゲーターというのはいろんなものを寄せ集めてくる。だから、たった一人なのですけれどもビッグなビジネスを起こすことができたり、たった一つなのだけれどもすごい改革をやったりできる。それは世界中の人とつながって、世界中のいろいろな知識ですとか経験ですとか、ビジネスの結果の遺産とかに自由にアクセスできますから。先ほど先生がおっしゃっていたいろいろな教材をみんなでシェアする。これ世界中でできるのです。
 そうすると、企業がある大きなことをやろうとしたときに、今までなら工場もつくらなければいけない、営業を持たなければいけない、研究所も、総務も経理も、何もかも要るというので、どんどん組織が大きくなっていって、大きい組織ほどいいみたいな感じになっていた。けれどもこれからはあんまり要らないですよね。むしろ1人とか2人とか3人でビッグビジネスができてしまう。そのビジネスというのはある日、パタンと畳むこともあるかもしれないし、ある日パタッとまたスタートするかもしれない。それは多分、国をまたがっていることも十分あり得るし、男とか女とかはほとんど関係ないですよね。
 そういう世界になっていったときに、じゃリーダーって何なのかというと、やっぱりアイデアというかコンセプトというか、そういうものでしかみんなを引っ張っていけないのではないでしょうか。ちょっと極端な言い方ですけれども……。今、話しながら自分で一生懸命まとめています。というのは、自分自身でもまだ十分には納得できてないので、話しながらまとめているのですけれども、多分、全く違う世の中でしょうね。大企業っていうものの存在があまり必要なくなるのではないですかね。

荒木:私自身はリーダーシップにはいろいろな形があると思っています。内永さんのような非常に強烈な思いをもって、ぐいぐい人を引っ張っていくリーダーもいらっしゃると思いますし、もしかするとほんわかという感じで、みんなをうまく乗せてしまうようなリーダーもいるかもしれません。恐らく漆先生などは、いろいろなタイプのリーダーシップを発揮する生徒さんをごらんになっていらっしゃるのではないかなと思います。
 私自身はそういった意味では、いろいろなタイプのリーダーシップがあっていいし、あるいは、リーダーシップを発揮するのがいつも同じ人というわけでもないのではないかなと。あるときはリーダーであり、あるときはフォロワーとして別の人がリーダーになることもあるというような世の中になるのかなと思います。これまでのリーダーのイメージというのは、ある非常に強烈な方がみんなを引っ張っていくみたいな感じだったと思いますが、これからは多分、場面場面でここではこの人がリーダー、ここではこの人がリーダーみたいなことになるんではないでしょうか。
 リーダーシップというのは人間が2人以上いるところに発生するわけですが、家庭の中でもリーダーシップをとるのが夫なのか妻なのかといっても、その時々でいろいろ違っているケースが多いでしょう。うちは、一番リーダーシップの強いのは奥さんで、その次は娘、その次は犬で、最後が自分だ、なんて自嘲的におっしゃっている男性もいますね。我が家も、場合によっては子供がリーダーシップをとることもあります。
 私が勤めている日立製作所という企業は、先ほどの話のこれから滅びゆく大企業なのかもしれませんけれども、とはいえ生き残ってゆくためには、大きな企業自身が文化を変えていく、ちょうどそういう時期になってきているのかなと思っております。一つの企業、一つって何なのか、というのもあるかもしれません。特にグローバル化すると、当然、各国に工場があったり、オフィスがあったりするわけで、その中でのリーダーシップというのもあるわけです。ですから必ずしも本社の頂点にいるCEO1人が会社を全部束ねています、世界中を束ねていますという、そういうような世の中ではなくて、もうちょっとローカルなところでのリーダーシップが発揮されるような、そういった世の中になっていくのかなと思っています。
 特に、私も娘と息子を持っておりますけれども、昔と比べると今の子供たちは、と、ひとくくりにするのはよくないのですけれども、友達とかあるいは職場でも、あるときは自分が幹事役か何かリーダーをやっているときもあれば、あるときはフォロワーになっていたりと、そこは非常に自由な感じになっていますね。そのときそのときで、そのテーマとやらなければいけない内容によって得意な人がリーダーシップを発揮していくというような場面がふえてくるのかなと感じています。恐らく今後のリーダーシップというのも、今までとまた違った形で分散化したり多様化したりしていくことになるのかなと思っています。

質問タイム

尾崎:あっという間に随分な時間になってしまいました。が、せっかくですので、ご質問など、フロアから頂戴したいと思います。いかがでしょうか。

質問者:まくら言葉じゃないのですけれども、頭がすごく活性化する本当にいい機会をいただけて、ありがとうございました。あと、娘が2歳なのですけれども、品女に入れたいなと思ってしまいました。
 内永先生に質問ですが、世界がボーダレスになってきて、いろいろな価値観の人とか、見えない人と仕事をするというような時代が来るというときに、日本のこれまでの固定観念みたいなところをぶち破って仕事をしていかないで、世界と戦えるのだろうかというところが心配に思ったので、アドバイスをいただければと思いました。

内永:オールドボーイズ・ネットワークというのは別に日本ユニークではなくて、長い伝統のある組織では、その中に必ず明文化されていない約束事のようなものがあります。ただ、これからはどんどん少なくなると思います。理由は簡単で、要するに、先ほども言いましたように、ビジネスモデルを変化させることができた組織だけが生き残るのです。ダーウィンが、強いものが生き残ったのではなくて、変化に対応できた生物だけが生き残ったと言ったように、そういう世界がこれから来ると思うのです。ですから、オールドボーイズ・ネットワークというところに安穏としている組織は、多分、変化に対応し切れず、私たちがそこにアダプテーションしようがしまいが、勝手につぶれていくと思います。
 そうはいっても、今ある組織がそういうものであれば、それを壊すというか、うまくやりながら変革をするというのが、今求められているミッションだと思います。将来的には、多分オールドボーイズ・ネットワーク的なものよりは、やっぱり個の価値観とか個の寄って立つ基盤といったようなものがすごく大事になってきて、その個のアイデンティティを持たない人というのはあまりリスペクトされないでしょう。だから、「私も」とか「ミー・トゥー」とかいうのは、日本では歓迎されますが、海外で「ミー・トゥー」とか言っていると、「あなたは自分の考えがないの?」とバカにされます。これからはそれがもっともっと進むと思うのですね。個の人たちがそれぞれ自分の価値観を持ち合いながら、そこをチームとして一緒にまとめながら、新しい発想ですとか新しいモデルですとか新しいチャレンジというのが生まれてくるのだと思います。みんなが同じ場にいなくても、チャレンジできるという可能性はこれからどんどん出てきます。先ほど日立さんのお話がありましたけれども、例えば工場を自分で持つ必要は全くありませんし、研究所だって自分で持つ必要はありません。極端な言い方をすると、アイデアだけで、どこかからお金を借りてきて、そして工場はその工場を借りて物を作るというふうなことができて、会社そのものが物すごくルーズリーカップルになると思うのですよ。三角形のピラミッドの組織というのは、これからは難しいと思います。それを維持するためのコストだけでも大変なので、むしろそれよりは水平展開しているようなルーズリーにくっついた組織が、この工場を使ったけれども、この工場はだめだからほかの工場に行こうとか、物流の流れも、この物流はよくないからこっちにしようとか、そういうふうに非常に相互のファンクションそのものが独立して、それが緩やかにつながっていく、そういう世界になってくると私は思っています。そういう世界では、オールドボーイズ・ネットワークも残るでしょうけれども、その弊害はすごく減ってくると思います。
 ですから、これからの女性の方々というか若い人たちに言いたいのは、自分というもののアイデンティティをどこまでしっかり持つかですね。それがないと、前向いても後ろ向いても横向いても、自分の存在価値ということに対してすごくつらいと思います。ですから、今こそ四書五経とか古典、哲学書などを徹底的に読んで、腹に落として、自分の価値観は何なのか。そういう意味では宗教を持っている方というのは強いと思いますね。いろんな宗教戦争がありますけれども、それだけ宗教というのが人間のアイデンティティというものを支えているのだと思います。そういう意味では、私のように宗教観のない人間というのは物すごくつらいですね、苦しくなったときに。ということで、宗教を急に持てというわけにもいかないので、今は一生懸命、老子を読んだり、四書五経の本をわからないなりにも読んで勉強しています。私の年齢になると余命もそう長くはないので、あんまり役に立たないかなとは思っていますが。
 ですから、若い人にはそういうことをぜひやっていただきたいと思います。

質問者:貴重なお話、ありがとうございます。
リーダーシップという観点で皆さんにお伺いしたいのですが、ダイバーシティな中で過去に捉われずに新しいアイデア、新しい発想で物事を考えて方針を出すという際には、荒木様がおっしゃっていましたけれども、コンフリクト、衝突が起こりますよね。その中でリーダーシップを発揮しつつ方向性を示す、企業の業績向上に向かわせるために、どのような工夫をされてこられましたでしょうか。ポイントとなるようなことですとか、ぜひ教えていただければと思います。

荒木:おっしゃるとおり、やはりコンフリクト、別にリーダーシップを発揮するときだけではなくて、人が何人か寄ればコンフリクトは避けられないですね。日本人はどちらかというとそれをうまく丸めてきたというところはあったのかもしれませんけれども、企業の中でも、私も現在そうなのですけれども、外国人の方が同僚でいますし、私のように年とった女性もあまりいないので、やっぱり彼と私とが何かどうも浮いているのかな、と感じるときが多いです。その同僚、アメリカ人は、見ているとやっぱり発想の方法とか仕事の仕方が違う。こんなことをやっていたら負けちゃうよと内永さんに叱られそうですが、日本の企業ではまだまだ根回しみたいなものがある程度必要なところがありますよね。彼を見ていると、一応日本人っぽいところがあるのでそれなりに適応していて、最初はふーん、すごいなと見ていたのですけれども、でもやっぱり日本人と違うビヘイビアがあるなと。本人は結構意識してやっているのかもしれませんが。伝統的な組織の中では非常に優秀であっても、やはり組織の文化やお作法になじまないやり方で仕事をすると、コンフリクトと言うか、チームワークをどういうふうに組んでいくかというときに難しい状況が発生する。やっぱり多様な価値観とか多様なバックグラウンドとか、そういう人たちが増えてくればくるほど、マネジメントとしては非常に難しいなというふうには思っております。
 私自身も逆の立場で、例えば山形県の県庁に行ったときに、立場も副知事という知事の次のポストで、しかもポーンと落下傘のように行ったということもありまして、最初は非常に苦労いたしました。言ってみれば、敬して遠ざけるというか……。上の立場なので皆さんそれなりに対応してくださいますし、別にいじめられたりしたことは一度もないのですけれども、ただ、やはりどうやったらうまく皆さんと同じ目線と言ったら変ですけれども、気持ちになって仕事をしていけるかというのは、最初のうちはかなり苦労いたしました。
 でも、どんな組織にもミッションというものがあります。最後はやはりそのミッションを達成するために、自分がどれだけ私心を捨てて、貢献して、成果が上げられるか、ですね。成果が出せれば一番いいのですけれども、仮に成果がうまく上がらなかったとしても、どう貢献できるかというところが、特に最初の信頼関係を築く上では大事だなと思いました。いきなり最初から自説を述べ立てるとうまくいかないということを、多々経験をしてきております。これはずっと長くいた組織の中でもそうかもしれませんけれども、全く違った文化の人たちと一緒に仕事をするという場合には、まずは信頼を得るということが何といっても大事だというふうに私自身は思っております。
 そのためには、ほんの小さなことでもいいので、その組織のミッション達成のために貢献をすることですね。それを最初に「私、やってあげます」なんてやると大体うまくいかない。私自身も結構痛い目を見ています。

内永:難しいですよね。けれども、今のお話を2つの要素に分けたいと思います。
 まずは、価値観の違いですね。例えば日本人的なあうんの呼吸が得意な組織と、それから物すごく明示的なコミュニケーションが得意な組織の人たちって、なかなかコミュニケーションをするのが難しいですよね。でもいろいろなグローバルの企業の中ではもう始まっているのですが、まず相手の組織がどういうカルチャーなのか、それから自分たちの組織はどういうカルチャーなのかというのを調べるツールがあるんです。30項目ぐらいチェックリストになっています。例えば時間に対する考え方とか、それからコミュニケーションの仕方、非常にローコンテクストなのかハイコンテクストなのか等々。私は極めてローコンテクストで、要するにストレートに言うと。ハイコンテクストというのは、「わかるよねー」って感じですよね。これはどっちがいい悪いではなくて、e-ラーニングを使って全部チェックしていくと、いろいろな要素が出てくる。つまり見える化するわけです。
 そうすると例えば時間の考え方。日本人はきちきちとやって、それがいいと思いますけれども、ブラジルに行くと、あほじゃないかと思われるわけですよ。何でそんな1分2分のことでキーキー言うの、人生もっと長いのよと。こういう感じですよね。どっちがいいか、これはわからないわけです。
 だから、そういう意味では、お互いのカルチャーがどうなのかまず見える化して、それでなるほどねとお互いにわかってから、理解し合うというわけです。基本的にはカルチャーの違いをどうインテグレーションするかということですが、欧米では既にやられています。ですから、例えばアメリカの企業が、アフリカの会社を買ったとします。そうすると、このアフリカの会社の企業のカルチャーはどうなのかというのをチェックしてお互いに見える化して、それではこういうふうにしましょう、ああしましょうと、どういうカルチャーをつくるかというところまでトレーニングをするセミナーがあります。
 それから、その次のポイント。カルチャーの違いではなくて、議論の違いだとすると、私がやることは、なぜそうなのか、どこに原因があるのかということを、徹底的に聞きます。聞いて、それを全部見える化する。ポストモーテムという、解剖するみたいにみんな出してもらって、それを全部図式化する。あなたの考えはこうこう、こういうことよね、私はこうで、こうで、こうよねと言って整理してゆくうちに、お互いにあっそうかと見えてくる。
 そういう意味では、この段階になると、自分の個人的な思いとか意思とかプリファレンスってほとんどなくなるのですよ。ロジックだけになるので、論理的にはこれが大事で、プライオリティーはこうって。まあそういうやり方が好きな人と嫌いな人がいますけれども、ほとんどみんな文句言わないですね。なぜならば、極めて論理的に整理されるので。もちろん論理で整理されないこともいっぱいあるのですが、それはそれでまとめておいて、好きか嫌いかってやるわけです。というふうに、私はやっぱり議論であれカルチャーであれ、お互いに違う人たちが集まったときにはいかに見える化するか、いかに共有できるか、そこがすごく大事だろうと思っています。
 ちなみに、先ほどのお話にありましたように、よくアメリカ人との議論では徹底してやりますね。私の知っている範囲では、物を投げたりとか、すごいですよ。めちゃくちゃ議論します。ところが、お昼の時間になると、ランチ行こうよって肩組んで出て行くんですね。議論をするということと個人的に好きか嫌いかということをクリアに分けていますね。そうしないと議論ってできないですよ。日本人って、議論してあいつにやり込められたから、あいつとはもう飯なんか食わないとかってなるでしょう。そういうことではなく、そこを切り離す努力っていうのをしていかないと。そういうクールさがすごく必要かな。そうすれば、みんな安心して議論を吹っかけるし、こっちも安心して議論できる。とことんやった後で、でも、ご飯食べに行こうという、そういうことを私はともかく心がけています。

漆:私たちのところは100人ぐらいの本当に小さな組織で、しかもみんな学校の先生なのですね。その中で、むしろ外国人教員との関係のほうが「文化が違うから歩み寄らなければ」という意識が働き、背景の近い人同士がぶつかりがちです。そういう中で、私自身が改革に参加したときにぶつかった人、どういう人とぶつかって、どうやって克服したかを話します。私は学校を何とかしなければいけないと思っていたので、正しいことを言っていたつもりだったのですよ。けれども、それでも動いてくれない人というのが、4種類あったのですね。
 1つ目が、そもそも何で改革なんかしなければいけないんだ、改革の必要性を「知らない人」で、例えば制服を変えようといったときに、年配の先生に「私は卒業生で、この学校を選んだのはセーラー服がかわいかったからなのに、何で変えるの?」って怒られたのです。自分だけで情報を外に取りにいくと、自分ばっかり危機感が強くなって、そういう人との距離がどんどん開いてしまったのです。そこで複数で最初の情報から取りにいくようにしました。それで、いろいろな人の口から言ってもらうということをしてきました。
 2つ目は、「面倒くさい」という人ですね。改革というのはきのうと違う仕事をすることなので、ほとんどの人は嫌いです。だから、私は「正しい人」じゃなくて、「嫌なやつ」だったのですね。
 3つ目は、「責任をとりたくない人」。責任というのがまた人によって違っているのです。「何かあったら私が責任をとるから」と言ったら、急にやってくれるという人がいて、その人に「じゃ、何か自分のクラスで問題起きたら、僕が謝るよ」と言われたのです。それって責任とるって言っているのではと思ったのですけれども、その人にとっては同僚にどう思われるかが責任だったのです。
 この「面倒くさいのがイヤな人」と「責任をとりたくない人」というのは、私と違う絵を見ていることに途中で気づきました。私はゴール、改革したら生徒が喜ぶという成果とゴールを見ているのですよ。けれども、面倒くさいとか責任とりたくないと言っている人はプロセスを見ているのですね。プロセスの面倒くささとか、もし失敗したら自分のせいになるというリスクを見ている。プロセスとリスクを見ている人に、ゴールと成果を見ている人が幾ら言っても、違う絵を見ているので平行線ですね。それで私は、もしできたとしたら、どう生徒が変わるかという話をして、その人に何を怖がっているのかを聞くようにしました。それで、どうしたらこのゴールのためにプロセスの問題をクリアできるか一緒に考えようよと、大きなことでなく「ちょっと手伝って」と隣に座って一緒に小さな作業からやるというふうにしてきました。
 最後に、何を言ってもだめな人っているんですよ。そんなこと何万回に1回もないだろうというようなリスクを問題にする人ですね。そのリスクをどんなにつぶしても。そういう人は「私のことが嫌い」なのですね。私も最初に、この組織のやってきたことが間違っているからこうなったのだみたいなことを、外から来て偉そうに言ってしまったので、嫌われた。この人間関係を修復するのに3年ぐらいかかりました。なので、やっぱり目的意識の高い人間は嫌われてはいけないのだなって後から気づきました。
 そういうことを通して対立を乗り越えるようにしていって、その中で気がついたことってもう一つありまして、人というのは行動レベルでぶつかるんですね。例えば、模擬試験の前に勉強を教えるべきか、それとも実力本位でやらせるべきか、というふうなことでぶつかるんです。でも、二人とも同じ価値観なのですよ。「生徒のために」ですね。なので、行動でぶつかったときは、「そもそも何のためだっけ」という価値観のところに戻って話す、話し合ってもらうというようなアプローチをしました。あと、あなたにとってこれはどう見えているのかということを話し合ってもらう。全然違うふうに見えているのですね。まず価値観を合わせることと、お互いに見えている絵が違うということを明らかにして仲裁するというふうなことをして、こつこつとやってきました。

内永:漆さんのお話をすごく感心して聞いていたのですけれども、私はもっとクールに、下にいる人を4象限で分けています。どうやって分けるかっていうと、優秀か優秀でないか、それから私の言っていることに納得しているか納得していないかと。それで、優秀で私の言うことに納得してくれる人はすごいファインですよね。優秀でなくて納得していない人は即出てってもらいます。それで、優秀なのだけれども私の方向性に納得していない人と、優秀ではないのだけど私の言うことに納得している人と、このどっちを選ぶかですね。答えは簡単です。優秀だけど納得していない人は、腐ったリンゴになるんです。腐ったリンゴはどんどんほかのリンゴを腐らせるのです。ですから、その人たちは出ていってもらう。というふうに人間をカテゴライズしてやりました。という意味で、漆さんはずっと優しいですね。

尾崎:要は、非常にたくさんのリーダーシップの手法があるということだと思います。
 あっという間に時間が来まして、もうこの会を終わる時間になりました。やはりこのパネルディスカッションの趣旨は未来を切り拓く女性たちへのインスピレーションをということなので、最後に一言、はなむけの言葉をいただいて、この会を終わりにしたいと思います。

荒木:今日は非常に楽しかったのですけれども、やっぱり自分のやり方で頑張ってみるということなのかなと思いました。いろいろお話を聞いて、いろいろなやり方があるなと思ったのですけれども、最後はやっぱり自分だということ。あと、いつでも前向きに元気にやっていくことが長く続けられることにつながるのかなと思います。ぜひ皆さんにはきょうのお話が、少しでも参考になればというふうに思っております。

漆:改革がうまくいった学校といかなかった学校の違いというのは3つありまして、1つが「言いわけを探さない」ことですね。誰か初めの一人がエイヤッと決めてやりきる、そういう学校が改革できています。2つ目が、今はこれがないからとかあれがないからとか言っているとだめで、とりあえず「今のリソースで考えない」。ないことは人に頼むというところがうまくいっています。最後に、ずっとうまくいき続けているところの特徴は、「ケチじゃない」ことですね。うまくいったことを上手にシェアしていくと、新たな情報が何かまた入ってくるといういい循環ができるのです。この3つがうまくいくところといかないところの違いでした。

内永:じゃ、トリで。皆さん方に対するメッセージですけれども、特に若い人たちは本当にいい時代に生まれていますよ。何でもできます。昔は大きな組織があったりお金があったり、そういうものがないとなかなかできなかったことって、たくさんありましたけれども、今はそんなことありません。たった一人でもネットを使い、ITを使い、どことでもつながります。ですから、問題は何かというと、どれだけ自分のビジョンを大きく持てるかですね。どれだけ自分の夢を大きく持てるか。夢を小さくすると、自分の行動を制限してしまいます。夢を大きく持って、信念を持ってください。今はほとんど解決策はあります。それから、スピードが速いですから、少々失敗したってもう1回やり直せばいいので、そういう意味では本当すばらしい時代に来ていますし、世界中が皆さん方の舞台ですから、好きにやってくださいというのが私のメッセージです。

尾崎:ありがとうございました。どうぞパネリストのみなさまに拍手を。(拍手)
では、これでパネルディスカッションを終わります。