リーダーシップ111(ワンワンワン)

基調講演 内永ゆか子氏 [2]

女性の活躍を阻害する3つの要因

 ダイバーシティチームでは、まず1年半ぐらいかけて、何でそうなのかと要因分析をやりました。その要因はたくさん出てきましたが、結論から言うと私は3つだと思っています。

 1つ目は、やはり会社の中、上のほうに女性がいないということ。5年ぐらいたつと、大体、仕事も見えてくるし、会社の中の様子もわかってくる。そうすると今はこの仕事を一生懸命やっているし、上司からも結構褒められているけど、あと5年たったら私はどうなるのと思ったときに、お手本になるような女性が誰もいないわけですよね。特殊人間みたいな女性役員が1人だけいても、私のことですが、あんなふうにはなりたくない…と。(笑い)男の人はたくさんいるわけですよ。お隣の同僚から上司からその上から…10年たつとこうなるのかな、20年たつとこうなるのかな、ボスは10年でこうなったけれど自分は5年で、7年でなってみたいなんて、具体的な目標、イメージが持てるんですよね。でも、女性の場合には、ロールモデルがいないわけですから、この会社にいても将来性はないかもしれないと言ってやめたり、上に行くのも大変なのよねと思ってやめたり。そういう意味でいうと将来像が見えない、ロールモデルがいない、これは女性が伸びてゆかないとても大きな原因です。

 もう一つは、皆さんよくご存じの仕事と家事・育児のワークライフバランスですよね。

 それから、3点目は、オールドボーイズ・ネットワーク。オールドボーイズ・ネットワークって別に和製英語ではありません。私がアメリカに行ったとき、IBMの女性エグゼクティブが集まって、何で女性のエグゼクティブが増えないのか、根本原因は何かと議論しました。彼女たちはいろんな問題提起をしましたが、最後にオールドボーイズ・ネットワークだと言うのです。私は何のことかわからなくて、「そのオールドボーイズ・ネットワークって何ですか?」って聞いたら、その組織をずっと引っ張ってきた、成功に導いてきたマジョリティの人たち、その人たちが長い間つくってきたその会社なり組織なりの文化であり約束事であり仕事の仕方だと。これをオールドボーイズ・ネットワークというのだそうです。何でボーイズかというと、マジョリティが常に男の人だからですね。このことを言われて、私は初めて、あっなるほど、そういうものがあるのだと気付きました。

 オールドボーイズ・ネットワークという言葉を聞かれた人、どれぐらいいらっしゃいますか。手を挙げていただけますか。さすがですね。でも、手を挙げてない方もいらっしゃるから、ご存じない方もいらっしゃるようなので、具体的に何のことを言っているのかちょっとお話しましょう。いやいや、私は男性と非常に密接にコミュニケートをしているので、男性たちとも飲みに行くし、仲間に入れてもらっているから、全然問題ないのよとおっしゃる方、結構多いと思います。私もそう思っていたのです。でも、後でよくわかりました。オールドボーイズ・ネットワークに全く入れてもらえてなかったと。どういうことか、非常にわかりやすい例を一つ二つ申し上げましょう。私は会議に出席するとき、すごくまじめな社員でしたから、一生懸命事前勉強して自分の意見をまとめて行くわけです。大体、女性の方ってまじめですから、同様の人が多いのでは?それで、プレゼンテーターの説明が終わるとパッと手を挙げて、「Aさん、あなたの今日のお話に私は反対です。なぜならば……」と、理路整然と言うわけですよね。ペイペイですから、あんまりぐたぐたと話てはいけないと前もって準備していくわけですよ。

 そうすると、100%、私の言うことは受け入れられませんでした。また今日もだめだったか、私が女だから聞いてもらえないのだとずっと思っていました。あきらめて、ある日男の人がどうやって通しているのかとじっと聞いていました。そうしたらパッと手を挙げて「Aさんのプレゼンテーションはすばらしい!大変よくまとまっていると思います」と。「しかし、観点をちょっと変えて、こういうふうにやるとこうなって、これでどうでしょう」って言ったわけですよ。よく聞けば、要するに反対ですよね。でもそれを言われたAさんは、「うーん、確かにね。確かにおっしゃるとおりですね。ちょっと検討してみましょうか」と。

 ちょっと待てよ、私が言ったときは無視されて、男の人が言うと何で「ちょっと検討しましょうか」になるのか?何が違うのかよくよく分析した結果、発言の出だしが違うんですね。私は「反対です」と言ったわけです。その男性は「すばらしいプレゼンテーションです」と。ようやく私は分かりました。意味のない「枕言葉をつければいいんだ!」と。こっちにとっては意味がなくても、聞くほうはそのひとことで耳がパッと開くんです。そういえば、みんな枕言葉がついていたな、最初は褒めなさいと言われていたような……。私は一生懸命やるが余り、そんなことを忘れていたわけですよ。

 それで、翌日、同じことをやりました。「Aさん、きょうのプレゼンテーションはすばらしいと思います」。全然思ってなくてもね、これが枕言葉だと思って。で、おもむろに自分の思っている論を説明し、提案すると、今までは「はい次」とスル―されていたのに、「うーん、確かに内永さんが言う点はあるよね」と、こう言ったのですよ。これ、ウソのような本当の話です。私、つくづく思いました。たったこのひとことで、私10年間損していたなあと。

 これがなぜオールドボーイズかというと、私と同じことを男の人がやったとします。そうすると、男性の先輩か上司か同僚が必ずアドバイスしてくれるわけですよ。「おまえな、最初に相手をまず褒めるんだよ。そうすれば相手は聞いてくれるから、それから自分の言いたいことを言うんだよ」って。私だって誰かが言ってくれたら、すぐに分かったわけですよね。だから、男の人から見ると、女の人が率直に「反対です。なぜならば」と言うのは、あれは女だからということになる。女だからストレートに言う。女だからズバズバ言うと。そうではないのです。ズバズバ言うのは損だよと、ちょっと教えてくれたら……。別に女だからでも何でもないわけですよね。

 この類は山ほどあります。言い出すと、キリがないくらいです。服装もそうでした。派手な服装をしていくと、皆さん方もそういう経験があると思いますが、男性って「なかなかチャーミングだね」とか言うわけですよ。これ、気をつけたほうがいいですよ。「なかなかチャーミングだね」と言われたら、決して褒められているのではないですから。私は喜んでしまいました。男の人同士なら「おまえな、そういう服装は職場には向かないよ」と。本当は女性にもそう言いたいけれども、言えない。言えないから「なかなかチャーミングだね」と。

 私にもある方が「明日のプレゼンには、あのスーツがいいよ」と注意してくれて、これは今までまずいことをしていたなと気付いて、そのときから服装を変えました。

 それから、私はけんか下手と言われています。「寸止め」ができないんですね。寸止めができない女性って結構多いですよ。相手をぐさぐさ突き刺してしまう。「お願いだから、そこまで突き刺さないで」と言われるのですが、私自身は突き刺しているつもりはないのですよ。ちゃんとわかっていただきたいと思うから、相手が往生際悪くしていると一生懸命話すのですが、やられたほうから見ると刺されている。でも、男性同士は寸止めが上手ですね。あっ、もう相手はわかっているなと思うと、それ以上言わない。言われたほうも言ったほうも、これでもうわかっているよね、と。ところが、なぜか女性はそれがわからない。私だけじゃなくて、女性はけんかが下手とか、物の言い方ができてないとかよく言われていますね。

 こういうことって他愛のないことのようですけれども、実は組織のリーダーになったときには致命傷です。課長まではいいかもしれませんが、部長クラスになって寸止めができなくて、貸し借りもよくわからないと。

 そう、「貸し借り」も女の人はあまりよくわかってないですね。誰かが私を助けてくれたとします。私がどう思うかというと、私がかわいいから助けてくれたのだって。皆さんもそう思いますでしょう。けれども、男の人はそんな風には考えない。「一本貸しだ」と思っているのです。でも、借りた女性のほうは忘れてしまいますから、しばらくしてから「あのときの貸し、返してよ」って言われても、「何のこと、それは?」と。

 こういうようなことが山ほどあって、組織と組織をどうマネージしていくのかといったようなところに問題が出てきます。実は女性の場合は、組織の中での自分の役割とか自分の立ち居振る舞いというのを、ほとんど教育されていません。私もそうです。組織というものがどういうもので、その中で自分が課長なら、課長はどういう態度をとらなければいけないのか、どういうふうに行動しなければいけないのかということについて、ほとんどわかっていません。正しいことは全て良いことだと思っているのですね。だから、部長がこうしますと決めても、「いえ、部長、おかしいですよ~」と、ずっと言い続けたりします。皆さんも、そういうところないですか?正義感に燃えて。

 でも、ビジネスって正義感ではないのです。早くディシジョンして、早く実行して結果を出して、結果が悪かったらまたそれをやりなおせばいいのです。PDCAをどれだけ早く回すかが一番のポイントなんですよ。正しいか正しくないかは議論していてもしようがないんですね。でも、女性の場合には、「私は正しいです!」と裏声で言ったりするわけです。これは上からすると本当に扱いにくいのです。結構頭もいいし、一生懸命だし、言っていることも理屈が通っているし、一応正しいことは正しいのだけれども、諸般の事情からこうやって決めましたといったときに、この諸般の事情というのが納得できない。社会正義に燃えてビジネスをやっても、うまくはいきません。

 そういう意味で、女性は組織人としてのトレーニングがなされていないのだと、男性の方々はご理解いただきたいと思います。女性も、自分たちは組織人としてどういう態度をとればいいのかということについて、総体的に未熟だと自覚しましょう。もちろんそうでない方もいらっしゃるでしょうが、未熟だと意識していると、組織の中でどういうふうにすればいいのかということがもっともっとわかってきます。

3つの問題点の解決策

 私はその3つの問題点に対して、まず「将来像が見えない」ということで、IBMの女性たち、2,500人を集めて大フォーラムを開きました。会社はダイバーシティをこういう戦略でやります。とても大事な戦略なので、女性のみなさんもぜひ頑張ってくださいと言ったんですが、その中である女性が、男の人と同じように働くことを求められるのは嫌だと言ったんですね。で、私の答えは非常に簡単です。「当然、女性にも戦力の一部としてがんばってもらいます。でもそれが嫌だったら、最初からちゃんと嫌だって言ってください」と。女性全員のキャリアを上げていく必要はありません。その代わり、会社の中で頑張って何かやっていこうと思うんだったら、1度馬に乗ったら下りないでください。馬に乗り続けてくださいと。もちろん馬に乗っているとき、谷を下りるときもあれば、山を登るとき、それからなだらかなところを走るときと、いろいろあります。だけれども、苦しいからといって、すぐに馬を下りてしまう、これは絶対にやめてくださいと言いました。この発言は男性からすごい喝采をもらいました。

 それから2番目の「ワークライフバランス」これに関しては、私どもはe-ワーク、いわゆる今でいうとテレワークですね、それを徹底的に入れました。e-ワークを入れたことによって、時間と場所から自由になりました。どこの場所で働いても、どの時間に働いても、自分の仕事、自分がやらなければいけないアウトプットがはっきりしていれば、自由にできます。そのためには会社の全ての情報がIT化されていないとできません。でも、IBMという会社はITを売るほど持っていますから、そういう意味では全社的に徹底的にこれを入れて、どこででも、家でも働けるということをしました。

 e-ワークは、最初は小学校に上がるまでとしたのですが、小学校に入ってからが大変というので、小学校を卒業するまでにしましょうと、12年間ですよね。12年間e-ワークできるというなら、20年やっても同じ。そして期限なしになり、ならば女性だけでなく、男性も。育児とか介護とかe-ワークにする理由が必要でしたが、理由も不要に。結局、上司が部下を見て、自分の目の届いていないところでもきちっと仕事をするかどうか、この人の仕事はそういうことができるかどうか、それを判断して、いけると思ったらやってくださいということになり、今はもうほとんど全員がやっていると思います。昔はとりあえず申請が必要だったので、その頃で2,500人。そのうちの7割が男性でした。そういう意味では、時間と場所から自由になるということ、これはとても大きな成果です。

 e-ワークをやろうとすると、働き方の見直しをしなくてはなりません。日本の企業が今テレワークをやろうとしていますが、なかなかうまくいっていません。外資系企業は大体やっていますが。日本企業では、制度を作ってもキャリアを目指す人はe-ワークをとらない。相変わらずオフィスに来て、朝早くから夜遅くまで上司の前で必死になって働いている。

 その理由は、業務プロセスが明確になってないからです。業務プロセスを明確にすること、承認権限や個々の人の仕事の責任範囲を明確にすること、そしてアウトプットによって評価すること。これは外資系ではほとんどそうなっていますが、この仕組みがないとテレワークをやっても、結局、あまり使えないのです。いわゆるモノカルチャー、具体的に説明しなくてもお互いにわかり合えるという、あうんの呼吸の暗黙知が非常に高い状況のままテレワークを導入しても、それは難しい。業務内容、プロセス、責任の範囲などをどれだけ明文化できるか、明確にするか、IT化できるかというのが、一つの成功要因だと思っています。

 それともう一つ、時間で評価をしない。長時間で評価してもよくはないと分かってはいるのですが、ほかに代替基準がないから、時間で評価する。なぜ評価基準がないかというと、個人のアウトプットが何かということが明確に定義されていないからで、何となくみんな頑張ったみたいになってしまう。でもこれからはモデルを変えていかなければいけない、ビジネスのやり方を変えなければいけないというときに、あうんの呼吸の仕事のやり方は非常にクリティカルです。日本のホワイトカラーの生産性の悪さというのも、私はここから来ていると思っています。

 もっと悪いのは、日本の企業ではほとんどのところがワークフローを定義する部署がない。どこが責任を持ってワークフローを決めるのでしょう。人事かな?総務かな?何とかかなと、責任部署がない。外資系では考えられないですよ。そういったことをこれからはインフラとしてやっていく必要があると思っています。

女性たちへのメッセージ

 最後に女性たちへのメッセージとして、自分のキャリアに対する目標を明確にしてください。与えられたチャンスには必ず乗ってください。よく「女性だから管理職が来た。そういうのは嫌です」と言う人がいますが、チャンスの来方に文句を言うのは100年早い!何でもいいのです。どんな理由であろうと、チャンスが来たら掴んでください。皆さん方の役割は、そのもらったチャンスできちっと成果を出すことです。チャンスの来方に文句を言うのは仕事じゃない。

 それから、個人としての価値をどう高めるか、ですね。女性はどうしてもマイノリティなので、自分で何かやらなきゃ、自分で成果を出さないと、女だからって言われるのではないかと頑張り過ぎる人が結構多いんです。そうではなくて、上に行けば行くほどネットワークです。お隣であり上であり横であり、ネットワークをいかに活用するか、世界中のネットワークを持っている人が勝ちです。1人でやれることは限られていますよね。そういう意味ではネットワーク、その中でロールモデルやメンターをつかまえてください。そして、馬に乗ったらおりないことです。

 それから、とても大事なこと。男性と女性の能力はあまり変わらないです。でも、基本的に違うのは、基礎体力です。最後の頑張りはやっぱり基礎体力です。男性は基礎体力があります。ですからお願いですから、いたずらにダイエットなんかしないで、しっかり体力をつけてください。

 もう1つ。周りが注目しているからといって、全てを完璧にしようとしない。自分が1人でやるときは完璧にやってもいいですけれども、部下を持つようになってから、上から来たことを全部完璧にやろうとしたら、部下はえらい迷惑なのですよね。男性を見ていると、ボスから10個の宿題が出たら、いいとこ5個ですよね。出すほうも10個言っても5個ぐらいだろうなと思っていますから。それを10個言ったら10個答えが返ってくると、いや、これどうなっているのとボスはびっくりします。一番迷惑するのは部下です。ということで、プライオリティーを明確にして、適当に手を抜くということもやっていかないとね。

 ということで、お話が少し長くなって申しわけありません。私は、キャリアアップするのは嫌だとか、そんなのおもしろくないと言う人もいますけれども、ぜひこれをお伝えしたいと思います。キャリアアップするということは何か。自分が自分の思いのままに動かして、自分がやりたいことをやってくれる人が10人から100人、100人から1,000人、1万人になるということなのです。だから、結局は自分がキャリアアップして職場を変えて、会社を変えて、市場を変えて、社会を変えることができる。そういう意味で私はやっぱり自己実現だと思っています。

 ちょうど今、女性たちにはすばらしいチャンスが、安倍さんがああいうふうに言ってくれたおかげもあって、追い風がどんどん来ています。ぜひそのチャンスを大事にして、そして自分の人生の中でとても有効な一つの可能性として活用していただきたいと思いますし、ご自身だけでなく、同僚であったり部下の人であったり、多くの女性たちと一緒にチームを組みながら頑張っていただけたらと思います。

 すみません、少し時間をオーバーしました。ということで、私のスピーチにかえさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)