鼎談
生越:志賀さん、どうもありがとうございました。さて、皆さん、本日はもう1人素敵なゲストをお迎えしております。リーダーシップ111の元代表で、現在、昭和女子大学学長の坂東眞理子さんです。
さて、これからの90分は、鼎談という形で進めたいと思います。と申しますのは、ここにお座りの志賀さん、坂東さん、私のキャリアを見ますと、それぞれバラエティに富んでおりまして、志賀さんは日産に入社されて日産一筋でいろいろなご経験を積まれてトップになられた方、それから、坂東さんは官僚からのスタートで、現在はアカデミックの世界でご活躍でいらっしゃいますし、私は4つの文化が異なる企業を経験しまして、今は2つ目の会社に戻っているというようなキャリアでございます。それぞれの個性を活かしてざっくばらんな話をするのがおもしろいのではなかという幹事会の意見でございましたので、鼎談という形で進めさせていただきます。まず初めに、坂東さんにお尋ねしますが、今の志賀さんのお話を聞いていかがでしたでしょうか。
坂東:日本の企業もやればできる、皆さんそう思われませんでしたか。やればできると(会場から拍手)。
今、ご存じのように安倍総理は、2020年までに各分野で指導的立場にある女性を30%にする“2030”にもう一度焦点を当てましたし、いろいろなところで女性を登用しようという声は上がっていますが、ご存じのように「世界経済フォーラム」での今年の女性のジェンダーギャップの発表によると、日本は136カ国中105位、昨年は101位だったので、また4位後退してしまいました。
国内だけを見ていると、昔に比べたら日本の女性達は随分活躍していると感じている方が多いと思うのですが、世界の変化のほうがもっと早いのです。その変化に日本が追いついていないというのが実態で、昨年の101位、一昨年が98位で、その前が94位、76位というように、ずるずる落ちている理由は変化のスピードが違うということです。日本はなぜ105位かというと、議員や首長が少ないことの他に、経済分野で104位です。健康分野は世界で一番長寿ですから34位というように健康や教育はそこそこですが、経済のところが世界の標準に比べても、アジアの標準に比べても、とても遅れていますね。例えば、東南アジアは特に女性の活躍が進んでいて、フィリピンは5位で、女性達が管理職の58%を占めているという状況です。何でこんなに違うのかというと、日産自動車においては「組織文化が変わった、ダイバーシティが企業の生産性を上げる、成果を上げる上で非常にプラスである」とトップが明確に本気でアナウンスされて、それが企業の全体の中に浸透したというところがとても大きいと思います。日本は、雇用機会均等法などいろいろ努力しているように見えるし、形はかなり整ってきているのですが、本気なのかなあと、やればできるのにやらない企業がとても多いと、私は今、志賀さんのお話をうかがっていて強く感じました。
生越:トップがリードするというのは絶対的に必要なことだと思いますが、それ以外に推進して成功させるには、これが必要だという何かがあるのでしょうか。
志賀:いつもこのダイバーシティの講演をするときは、実はもうちょっと格好良くやります。企業の経営者や人事担当役員の方が多い場合は、若干刺激をしようと思ってそういう話をします。でも今回は、10年間、企業戦略としてやっている会社でもなかなか苦労しているというような、皆さまもまさにそういう職場の現場におられる方々なので、あまりきれいごとを言うのでなくて、苦労しているところにも少し触れてみようかなと思いました。
坂東先生がおっしゃったように日本が105位になっている中で、日産自動車も取締役の女性がゼロ、執行役員50人中やっと1人ということですが、フランスのルノーは、取締役の4割を女性にするということを決めています。ルノーの取締役に国会議員の小池百合子さんになっていただいているのですが、日産からルノーの取締役として派遣する枠が2つあり、40%女性ですから、日産は女性を推薦しなくてはいけなかったということで、もちろん知見もあってということで小池さんにお願いしたのです。では日産自動車はというと、9人の取締役の中で女性はゼロということなので、まだまだ正直言ってそんなに自慢できるレベルではないということです。
最近、少し壁にぶつかってきているのは、例えばワークライフバランスであれば、家庭や町、自治体などがやはり女性の働きやすさをサポートしていかないといけないと思うのです。日産としては、会社の中に託児所が3つあり、女性の復職制度、休職制度、あるいは時短勤務など、いろいろな制度を設けているのですが、制度だけよくしたからといってなかなかうまくいかないという限界点に到達してきていると感じます。
それからもう一つは、どんどん女性を部長層、課長層に上げてきているのですが、課長補佐層が薄くなってしまいました。この課長補佐層の人達は、上司の課長を見ているとこれは大変だ、と思う。夜7時から会議もあるし、世界のマーケットが仕事ですから、テレビ会議は世界3局合わせようとすると大体早くて夜8時ですね。そんな時間に平気でテレビ会議がセットされるので、それは勘弁してほしいということになります。
ですから、このワークライフバランスを含めた働きやすさの土壌が企業だけでできるのかなと今悩んでいるところです。
生越:本当にそう思います。よくいろいろな企業では託児所をつくるなど女性支援の制度を入れるのだけれども、十分に活用されていないケース、あるいは働く女性のほうが十分にそれを活用しきれないというお話も聞きますけれども、どうですか。
坂東:制度はつくりやすいのですが、いくら制度があっても運用が問題なのですね。例えば育児休業をとると周りから冷たい目で見られる、特に男性はそれが強い。ですから、今土壌づくりとおっしゃったのは一企業の中だけではなしに、社会全体で女性が働くのは当たり前だというような仕組みにしていかなければいけない、そのためには女性達がもっと職場で活躍できるようなチャンスを増やすだけではなしに、男性達がもっともっと家庭で活躍できる機会を増やすことが大事だと思います。男性の方と話をしていると、家事、育児、介護というのは、お金では換算できないほど大事な仕事だと皆さんおっしゃるのですけれども、自分ではなさらないのですよね。
志賀:実は、お恥ずかしい話なのですけれども、ちょうど私が役員になって15年経ちますが、今一番下の娘が二十歳で、この間、孫の運動会に行きまして、「久しぶりだな、運動会」と言うと、家内は「そうよね、あなた、娘の運動会には出てないから」とか言われて、いやいやと大いに反省をしたんです。
坂東:実は、恥ずかしながら私も、保育園の運動会は土日なので行けたのですが、小学校の運動会は平日開催で無理でした。私たちの世代ですと、男性と同じように働けなかったらもう続けることはできない時代。公務員時代に私がある部署で、部下の男性が、「今日は子供の学校参観で有給休暇をとります」と言ったので驚いてしまったことがあります。自分はそれまでは休みをとってはいけない、そういう働き方が日本の職場で期待される働き方だというように刷り込まれてしまっていたのですね。
恐らく私の世代だけではなく、今も女性達の多くは男性と同じような働き方ができなかったら絶対指導的な立場に立つことはできない、管理職につくというのは自分のプライベートを犠牲にしなければならないのだというような思い込みをなかなか払拭できないでいるのでは。実際、またグローバル化が進めば進むほど働き方がとてもハードになってきて、両立がもっと難しくなってきていると実感しますね。
ただ、幸いというか、少子化が実はとても大きなインパクトになって、仕事と子育ての両立についてはすごくバックアップが進んだんですよ。ご存じのように、アメリカは育児休業制度もありません。もちろん産休制度さえない国です。それから、公立の保育所も殆どありません。それに比べると日本は少子化が大変だと、どうしたら少子化を食いとめることができるかということで育児休業制度も充実していますし、まだまだ足りないとはいえ、待機児童ゼロ作戦というので、認可保育所あるいは公立の保育所の収容定員数は224万人くらいありますし、非常に子育て環境は充実しつつあるのですが、女性が能力を発揮するという部分についてのバックアップ、応援がとても少ないなと思いますね。
今まで日本の女性労働曲線はM字型と言われるように、時期は20代の後半から30代の前半にずれたのですけれども、出産や子育ての時期に、一回仕事を辞めてしまう。辞めてしまうから年功序列の日本的な組織の中ではなかなか責任のある仕事につけない、また、じきに辞めてしまうだろうから鍛えても無駄だということで鍛えてもらえない、教育訓練の機会を与えてもらえないと、その悪循環だったのですが、今や出産、子育てで退職する人は本当に少なくなりつつあります。
勤続してハッピーに働けるか、生き生きと働けるか、いろいろなチャンスがあるか、人間として成長できるか、職業人として成長できるかということになると、まだまだ十分ではないということだと思います。
生越:ところで志賀さん、日産で女性の活用を推進されていらして、逆に男性のほうから、ちょっと女性優遇ではないかといった不満の声はないですか。
志賀:多分あると思いますね。私には言ってこないですけれども、裏ではやっぱりちょっとどうなのかなというような声は確かにあると思います。
我々が厳正にやっているのは、まず能力を重視し、男性と女性を公正に判断することです。たとえば、来年20人を課長補佐に上げようということで数値目標を持っていて、それぞれ部門別に目標を振り分けます。どのように割り振っているかといいますと、チームの中に女性のキャリアアドバイザーとして、女性の能力をしっかりと見きわめているような立場の人たちがいまして、組織が育成をすれば課長になるのは間に合いますよという母数を持っていて、「昇進させなさい」ということを大分手前から言っています。「3年先にはあと2人にしてください」とか、「課長に上げられそうなポテンシャルのある女性が3人いますよ」と。したがって、男性と女性が平等な昇進試験を受けても、しっかりと課長昇格できますよということを言えるような形でノルマというか、数値目標を置いているわけですね。
私は、要するに無理に上げなさいと言っているわけではなくて、育成をしなさいと言っているわけですね。育成のプロセスで、役員が直接メンターをしたり、女性だけ役員レベルでのキャリアデベロッププランをつくったりという、特別扱いを実はしているのです。なぜ特別扱いしているかというと、これは本当に変な話ですが、男性だけで決めていることは男性を特別扱いしているのと同じですよ。ですから、経営が女性を特別扱いしないといけないのです。要するに、課長に上げられるポテンシャルを持った女性が2人いても、数値目標もなく、トップから何も指示がなければ、「来年の課長候補を上げてきなさい」といって、その部署が例えば3人枠があったとしますと、全員男性しか上がってきません。なぜかというと、もう日常的なコミュニケーションで、「来年そろそろだね」と、男性社会の中の暗黙の序列で動いていますから、よほどそこに割り込んで、「こんなすばらしい女性がいるのだからこの女性は上げなさい」と言ってあげないと。実は男性から見ると「何であんなに特別扱いするんだ」、不公平とか逆差別とか言うんですけれども、それは違うと。そもそも私が何も言わなければ差別が起こって、男性側が男性しかリストに上げてこないということですね。ですから、そういうことをやって、そして2年、3年という期間の中で、課長の下に課長候補、その下に中堅があって若い社員がいるといったそのパイプラインをしっかり育てなさいと、そういうことをやっていかないと難しいと思います。
生越:坂東さんは、そういう男性中心の中に割り込んでいって役職を獲得されたと思うのですけれども、いかがですか。
坂東:あまり自分では割り込んだという意識はないのですけれども。でも、本当に今おっしゃっているのはそのとおりで、男の人が多くても誰も不思議に思わないんですけれども、女の人が少しいると、随分頑張って女性を登用したと思うんですよね。ですから、例えば、入社試験のときに成績順に採ると女性ばかり並んでしまうと。でも、成績順にとっては後が困るから男性を採りますと誰も疑問に思いません。当然だと。でも、もし逆に成績順に採ると男性ばかりになるから、女性に少し下駄を履かせて採りますなんていったら、それは逆差別だと、みんなが声を大にして言います。だから、今までの私たちの思い込みをなくすというのはとても大変だと思います。
生越:そうですね。何か固定概念というか、男女に関するステレオタイプの既成の認識があるのでしょうね。
坂東:そのためには、先ほど志賀さんがおっしゃっていたように、一人ひとりがどういう働き方をしているかという「見える化」が日本の職場はとても少ないですよね。For the Teamという言葉で、「長い時間職場にいるとあいつは一生懸命やっている、いいやつだ」ということになるし、「あいつはさっさと帰っていってしまう、ちゃんと働いているのかな」というように、どういう成果を上げているかという結果が見えないというのが、女性達が日本的な職場でなかなか評価されにくいことの一つかなと思いますね。
生越:志賀さん、今までにご自分で育てられた女性がいらっしゃると思うのですけれども、かなりご苦労されたという経験はありますか。
志賀:私が、ダボス会議のジェンダーダイバーシティのパネルディスカッションに座っていたときに、ある会社のCOOから、とてもすばらしい女性のエグゼクティブがいて、実は家庭の事情で彼女が退職せざるを得なくなってしまい、彼女が退職せずに済むようにするため、彼女の事務所を彼女の家の近くに移したという話を聞き、なるほどと思いました。
例えば、本当に会社の財産だと思っている能力のある女性が出産後、復職が難しいようなケースは、会社としてサポートしたり、あるいはもう少し女性の育児がやりやすいような国、例えばフランスに出向させるような形をとったり、一人一人の個人のキャリアデベロッププランの中で、出産や育児という期間を個人と会社がどのような形でお互いに負担を小さくしていくかを考えることが大事です。
本来であれば、会社と個人と、そして家族と地域社会の4つが一緒になって支えていくと、M字カーブのところの期間が短くなるはずです。特に私はフランスの会社と仕事をしている関係で、フランス人の女性が出産直前まで職場で働いていて、出産してくるからといってしばらくいないなと思ったら、2週間ぐらいしたらすぐ出てきている、どうしてパリではこういう仕事の仕方ができるのだろうと思うのですけれども、家庭の中でのサポート、あるいは地域社会のサポート、彼女の場合は自分のアパートの中に区の託児所があって、自然なんですよね。ですから、逆に言うと、3年間の育児休暇をとるという国はもしかしたら異常なんじゃないのかなと。その制度がいいかどうかはともかくとして、本当はそういう社会であってはいけないことだというように思いますね。
坂東:先ほどもお話にあったように、男性も女性もどれだけ働いてどれだけ成果を上げたのかがきっちりと見えないといけないと思うのですね。本当は男性も女性も家事育児もする、自分で勉強もする、そういう時間を持ちつつ決められた時間で成果を上げるということに、日本の企業はもっともっと工夫を凝らさなければいけないと思うのですけれども、そこのところが今までは弱かったなと。なぜ弱いままだったかといいますと、男性は24時間戦えますから、滅私奉公が可能な仕組みになっていた。男性が24時間働かなくなる中で、決められた時間の中で成果を上げるにはどうすればいいかということを今本当にみんなが考えなければならなくなってきていると思うのです。それこそ生越さんは外資系の企業だとそういう点はきっちりしているのではないですか。
生越:そうですね。外資系に長くいたのですけれども、働く時間はあまり関係ないのです。朝7時ぐらいに来て4時ぐらいに帰る人とか、コアタイムはありますが、要は、仕事をいつまでにどのように完成させるか、良い成果を出すのにどうするか、自分の計画でやればいいのです。会社に長い時間いることが仕事をやっているというのではなくて、能力のある人は、短時間でいい成果を出してより高度の仕事に挑戦してくれるのでその方がいい。「要は結果だよ」と言われた時は少し戸惑いましたね。
志賀:ひとつ参考になる事例をお話します。今日本に必要なのは男性が働くお母さん、妻を支える仕組みです。最近イクメンという言葉がありますけれども、会社がそれをもっとサポートできないかなということで、週に1回誰でも在宅勤務ができるという制度にしたのですね。でも男性は会社に来たくて仕方がないのですよ。できる限り会社に長くいたいのです。
坂東:本当そうですよ。一番居心地がよいんですよね。
志賀:会社にいれば、肩書きで奉ってもらえるけれども、家にいればそうではない。ですから、会社にいたくて仕方がない男性を家にはりつける。そうすると、例えば奥様が働いていても男性が奥様にかわってやってあげられるようになる。ちょっとトライアルをやってみたのですが、これが非常に評判が良くて、制度化しようかと。時短勤務や在宅勤務というと女性対象の制度のようですが、そうでなくて男性にやらせると。
坂東:そうなのですよ。女性を優遇し過ぎると、企業はますます女性を採用するとすごくコストがかかるということで、結果的に正社員として女性を採用しないで、契約や派遣といった働き口しか女性に提供しなくなる。それでは心配です。男性も一緒に働き方を変えていかなくてはいけないですよね。
生越:そういう制度を設けても上司の人が、「えっ、家で育児なんて」という感じで価値観が違ったりするとなかなか運用が難しいのではないかと思ったのですけれども、実際にやってごらんになって、結構いけたということでしょうか。
志賀:人事担当役員もやってみましたが、奥さんが自宅で家事をやっている姿を見るだけでも意味があって、部下に女性がいると理解できますよね。そもそも男性は家事や育児を理解していないですね。無理やり会社に出てこさせないようにして、家事、育児を理解するところから始まると、部下に対しても、「在宅勤務をとって奥さんをサポートしてあげなさい」とか、「育児を手伝ってあげなさい」と言えるわけですね。
生越:「男性よ、家庭に帰れ」とは言いませんけれども、実態を見て自分で理解をしなさいということはすごくおもしろい発想ですね。
坂東:日本では女性たちが、自分が働いていることで夫のキャリアが不利にならないようにとか、母親が働いていることで子供が不利にならないようにと考え過ぎるんじゃないですかね。この歳になっても、未だに私に面と向かって「あなたは自分で子育てしなかったでしょう」と、「保育園に預けたでしょう」と言われて、「はい」とか言うと、「だから子供のできが悪いのですよ」というような非難をする人がいるのです。そういった思い込み、刷り込みというのは、まだまだ一朝一夕には変えられないですね。
生越:坂東さんは、お子さんがお二人いらして、お子さんも育てなければいけないし、お仕事も続けたいと、その葛藤はどんな感じだったのですか。
坂東:一番困ったのが、まだキャリアの初めのころで、幾らでも代わりのある下っ端の仕事をしている頃で、でもこれで辞めたらだめなので頑張るわけですけれども、そのときに一番子育ても大事な時期とぶつかってしまったんですね。ある程度こちらがキャリアを重ねて、職場でも発言権があって自由裁量できるようになると、「夜の会議はやめましょう」と言えるんですが。
実は、下の子供は11年離れているので私は37歳だったのですが、長女の下っ端の時とある程度裁量がつくようになった次女の時とは全然負荷が違いましたね。だから、私は女性もキャリアプランとライフプランを考えなければいけないのではないかと、ある程度自分の自由がきく、経済的にも少し余裕がある、そういうときのほうが両立しやすいのかなと思ったのですけれども、女性の人生とキャリアをどうバランスとるのかというのはまだまだ難しいですね。
生越:そうですね。アメリカの場合は日本に比べ意外と早く30代、40代でポジションを得ていくのですよね。だから、今坂東さんのおっしゃっているように、若くてもある程度自分のポジションを築いていると結構自由裁量があるというようなところもあるかもしれませんね。
坂東:それと出入り自由で、ある時期に仕事をやめて家庭にいても、また別の転職ができるとか、アメリカの場合はそのフレキシビリティがキャリアを継続していくのにとてもプラスだなと思いますね。
生越:日産のように大きな会社ですと女性支援の制度があってとてもやりがいがあるのですけれども、「それは日産のような大きな会社だからで、うちの会社ではちょっと違うわ」みたいな企業もあると思います。中小企業や自営の仕事をしようとする場合はそういう制度の支援がないので結構難しいところがありますよね。
志賀:大きな会社はそういう制度がつくりやすいのですけれども、実は大きな会社であればあるほど女性の比率が少ないのですね。中小企業のほうが女性の割合が多いですよね。なぜかというと、要するに職場自体が家族のように一緒に仕事をしているので、女性のライフステージに合わせて、「いいよ、昼までで」とか、「赤ちゃん連れてきてもいいよ」というような、非常に個人を従業員として家族のようにみているので、比較的女性が働きやすいようになっていると。ですから、逆に言うと、制度は中小企業のほうが充実していないかもしれませんが、受け入れる愛情のようなものがあるのですね。大きな会社になれば愛情は薄くなりますので、逆に制度を相当頑張らないとバランスがとれないと思います。
坂東:ただ、中堅企業、中小企業の場合は、働きやすい企業とそうでない企業と差が大きくて、それを見分けるのがとても難しいことがありますね。そして、大企業はとても労働条件が整っていて希望者が多いですよね。そうすると、大企業は優秀な男性がたくさん応募して来られるので、無理して女性を採らなくてもいいかということになってしまう。ですから、私はうちの大学の学生は、中堅企業でこれから可能性がある、人材が十分ではないから女性でも能力がある人には十分働いてもらわなくては困るというような企業へ就職したほうがいいと言うのですけれども、将来の成長性などのリスクがあるので怖いんですよね。
志賀:人材の流動性は本当に課題だと思っていて、先ほど部門ごとに管理職に引き上げるとき、もし引き上げられなければ、部門ごとに中途採用枠を持っていますから、中途採用で女性を課長として採用することも良いのですが、実はその中途採用のマーケットの中で、本当に女性が少ないです。流動性が高まると、ある程度キャリアを積んで出産や育児をして復職をする場合、焦らなくてもいいわけで、自分のキャリアや自分の能力を活かして次の違う会社、次の職場を選んでいけばいいわけですが、そうなっていないのが大変困るのです。
坂東:日本は、長期安定雇用を信じて、日本的経営というのは年功序列でと思っていますけれども、今や大学新卒の3割が3年以内に退社しています。これは女性だけでなくて男性も3年で3割、5年で5割なんて言われています。今までは女性は長く勤続しないからまともに鍛えない、幾ら教育投資をしても辞めてしまうからいろんなチャンスを与えないという言いわけが成り立っていたのですが、今や男性もどんどん辞めますから同じなのです。
だから新しい仕組みをつくらなければいけないと思うのです。今まで日本は、人材は内部養成、採用してから大企業で鍛えてもらう、そして昇進していく、だから勤続していることが女性のキャリア戦略としてとても大事で「どんな大変でも辞めないで頑張ろうね」というのが女性達への応援メッセージだったんですけれども、今や男性も女性も辞める時代で、きっと企業は鍛えてくれなくなってくるだろうと。すると男性も女性も企業で鍛えてもらいましょうではなしに、「自分で勉強しますよ」「自分でこれだけのスキルを身につけました」というように、どんどん自分の教育投資をしなければいけなくなってきているのではないかと思いますね。
生越:私は、会社を数回変わっているのですけれども、基本的に自分がコアにしている仕事があるのですね。それは「人」と「コミュニケーション」の分野です。中途入社の場合何か新しい事をやろうとすると、どの会社でも「いやいや、うちの会社はそうじゃないから、こうしてください」と必ずと言っていい位言われるのです。皆さん、新しい会社に幹部として途中入社するのは、結構しんどいのですよ。今の会社で続けていた方がいろいろなことがわかっているので楽ですし。また、外部から人を採るときは、自社内に人材がいないからという場合が多く、皆がウェルカムではない状況の中に入っていくことが多いのです。
私は何回かの転職でおもしろいなと思ったことは、その企業の文化を理解した上で自分文化を融合させることです。とにかく異文化の中に入ったらまず理解するために素早く馴染むことが大事です。でも馴染みすぎたら絶対だめなのですよね。外部から来た意味が全くなくなりますので。馴染んだ後で、自分らしさを新しくそこに植え付けないと。外部から呼ばれた意味を発揮するには、自分文化のようなものをしっかりと持っていないといけません。入社するたびに○○会社の企業風土に馴染んでいるだけではその人の個性が発揮できなくなり、外部招聘の意味がなくなります。要は自分の得意分野をもって、違う環境でも自分の価値を確立することです。
坂東:女性がずっと働き続けていくときには、今までの過去になりつつある男性の日本的経営の中で昇進していくという己れをなくした働き方ではなしに、今おっしゃったように自分を保ちながら馴染んでいく、そういう新しい働き方を自分で自分なりに、もがきながら身につけるよりしょうがないですね。与えられるものじゃないです。
生越:そうですね。だから、転職というと、今の会社に我慢できなくてという方も中にはいるかもしれませんが、そうではなくて、会社が女性を活用するのでなくて、自分が活用してやろうという位の気持ちでいると良いと思います。つまり、会社の人とお金と資材を活用させていただいて、ある意味、自分のやりたいことをやれる、とてもおもしろいなと思うのですよ。例えば、今ハウスオブローゼという会社は店舗を持っているのですけれども、自分で店舗をつくろうとしたら、かなりの投資をしなきゃいけないし、もし失敗したら破産するかもしれない。でも、会社のいろんな財産を借りて、自分一人ではできない店舗経営に挑戦できるなんて、おもしろいなと思っているのです。そんなような働き方もあるのではないかと。
坂東:でも、会社にもメリットがないとそういう働き方はさせてくれないわけですよね。私はずっと公務員だったのですけれども、例えば埼玉県庁に行ったときには全く1人でいきなりぽつんと違う環境に入るのですね。初めはじたばたするのですけれども、その中で自分ができることは何だろうかと、ずっと同じところでスキルを積み重ねていくのとは別の新しい環境で全力投球すると、そこでまた貢献できるのですよ。それがダイバーシティのおもしろみだと思うのですけどね。
生越:そうですね。一つの会社で働き続けることも素晴らしいことだと思うのですが、もしかすると一回張られたレッテルみたいなのがずっとついて回って、本人がいろいろ変化しようとしてもなかなかできないというようなこともありますね。
坂東:そうです。私は公務員のときに、「あなたの後ろには背番号がついている」と言って脅かされたことがあったのです。あいつはよく働くとか、できるとか、1年や2年、5年、10年のうちに、そういうのをみんなが見ていると言っていました。日本の企業もそうですよ。
志賀:まさに「“個”が輝く日本へ」という今日のタイトルの通り、同じような考え方をしている組織の中に、全く違う考え方をしている、あるいは違うキャリアの人が入って、その人が輝くかどうかというのがとても大事になってきています。例えば、日産でインフィニティというブランドがあって、今の責任者は米国アウディの社長をやっていたヨハン・ダ・ネイスンという南アの人をヘッドハントしたのですね。彼はアウディをやっていたので非常にプレミアムブランドに詳しいわけですが、日本の会社ですから大半が日本人ですので、その人だけぽんと入れても、普通は「アウディから来たやつ」とか、「何で全然昔から日産を知らないやつの言うことを聞かなきゃいけないんだ」ということで、見せかけ上トップにいるのですけれども、いろいろな意思決定は日本人側でやっているわけですね。これでは、せっかく個性のある人を入れても、組織の中で「個」が活かされていない状態ですね。入った個人も苦労するわけですが、そのようなことをずっと日産は十何年やってきたので、個性のある人間が当たり前のように組織の中にいるのですね。そうすると、自分たちの個性というか、自分たちの能力であったり、自分の専門性であったり、自分の過去の経験であったりみたいなもので1人ずつが勝負をしている状態、これで組織が活性化して、変革をしてイノベーションを起こして違う仕事をやれるようになる。多分そこまで持っていくと、男性、女性に関係なく女性が能力を発揮しやすい組織環境ができるんだろうと思います。 日産では社内の中にいる人たちが「ここまでやるんですか」というぐらいそれを一気にやってきましたから。ある職場では日本の会社なのに、上司はオランダ人で、その上がアメリカ人で、その上がイギリス人で、自分の上司3人が外国人というような職場の人もいます。それが当たり前になってくるということが大事と思うのです。
生越:そういう環境では一緒に働く人は皆同じような考えだろうなんて思っていられないですよね。やはりきちんと言葉でコミュニケーションをとっていかないとだめですね。
志賀:「あうん」というのは、要するにいろんな意思決定がどこで決まったのか、意思決定のプロセスが「見える化」されていないのですね。例えばそこに女性が入ってくると、自分が能力を発揮したいと思っていても何でこうなっていくのかがわからない、したがって、外国人がそうですけれども、今度そういう個の能力を活用しようとすると意思決定のプロセスを「見える化」するわけですね。「見える化」をすると個人が力を発揮しやすくなる、何でこうなっているのかがわかると、「そういうことか、じゃあ、私もこうすればいいんだ」と考えられるようになる。
生越:すごくよくわかります。日本企業ではよく、「じゃあそういうことで」と言われる場合がありますが、どういうことなのかはっきりとはわからないことがあります。異なる会社に入ったときに、いつも「何で?」「何かおかしい?」など疑問に思うのですが、どうしてそうなるのか理由がわからない。やはり「見える化」というのはとても大事だなと思いますね。
坂東:そこのところは、女性達が、男性の多い日本的な組織の中に行くと、どのように自分を表現すればいいのか、言葉遣い、態度、物腰、そういったことも含めて過剰適応する危険性もあります。逆に、本当にこのシステムを動かすにはどこにボタンがあるのか、それが見えないでやみくもに働いていてもだめで、日本的な組織の中で成功してきている有能な女性は、何か男性以上にそういうボタンの押し方がとても上手だったりして、これでいいのだろうかと考えてしまうのですけれども。
一昔前は、男性社会へ女性が入ると、敬語の使い方だとか、上司の持ち上げ方とか、上手くやらなければ違和感や嫌悪感が強かったですね。今はそれが本当に変わってきました。それは世代の差、時間の差だなと。日産の場合はもっとその変化が大きかったのだと思いますが、いろいろな組織で違和感、嫌悪感はなくなりつつあります。
生越:そうですね。さきほどの日産の例で、上層部に上がろうとしている女性達は一生懸命働いているけれど、予備軍の人たちが「あんなに頑張るのは」と、少し退いているという話がありましたね。
坂東:私もあれはとても不思議でした。こんなに女性たちが活躍しているロールモデルが多いと、みんな頑張って、私もというふうに張り切る人が多いのかなと思っていたのに、課長補佐クラスがやせ細っているというのは。
志賀:多分もう少し経つと増えてくると思うのですよ。ちょうどダイバーシティを積極的に推進していったのが2003、2004年ぐらいからですから。ちょうど今それ以降に入った女性達は、日産はダイバーシティを推進しているので、自分たちをちゃんと活用してくれるというように思っています。それと、ガイドも事務系5割以上、技術系15%以上と決めましたからパイプラインが太くなってきているのですね。
今、私から見ていると、頑張ろうと言って見るからに気合いが入っている方々と、後ろに引いて静かにさせておいてという方々と、二手に分かれているのかなと。この静かにしておいてという人達が能力がないかというと、決してそうじゃないのです。ポイントは、「私頑張ります」という人はどんどんチャレンジングな仕事を与えますからどんどんはい上がってきてねと。同時に静かにしておいてという側の人たちをどのくらいモチベートしていくかというのも会社としては重要なテーマになっているのです。
坂東:女性の中にもいろいろな人がいらっしゃるのですよ。バリバリやりたい女性もいれば、バランス型の人もいるし、今までの日本の人事マネジメントというのは個体差、個人差まで目配りするのが面倒くさい、それこそ生産性、効率が悪いというのでまとめてブランディングして、こういうキャリアで採用した人はみんなバリバリ型であるべきだと思っていたらそうじゃない人がいたりして、だから女心はわからないなんてみんな言い出すのですが、一人ひとり違うのです。それから、本当は1人の人でもバリバリ働ける時期と、子供に手がかかってやる気はあるけどもやれない時期というように、個人の事情によっても違うんですよね。その1人の人でさえダイバーシティ、女性同士の中でもダイバーシティ、このダイバーシティマネジメントが今の日本ではまだ上手ではないし、慣れていません。
生越:本人が一生懸命やろう、頑張りたい、けれどガラスシーリングみたいなものがあって上手くいかないという様な障害は取り外してあげなくてはいけないと思うのですけれども、本人が、責任を持ちたくないし、頑張りたくない、ポジションに着きたくないという人まで引っ張り上げようというのはなかなか難しい。無理して引っ張り上げて、後ではしごを外すようでは、それも不幸だと思うのですね。その辺の見分け方が大事で、それこそ本当に企業がしっかりと見ていかなければいけないと思うのです。
坂東:私が調査したときには、女性はよく偉くはなりたくないと言うのです。偉くはなりたくないけれどもいい仕事をしたい、人間として成長したいという気持ちを持っている人がすごく多いのです。だから、自分は去年できなかったことができるようになったなとか、いい仕事ができたというような場があれば、気持ちよく働けると思うのですね。
生越:個人差だと思うんですけれども、求めているものの価値が違いますよね。本当にタイトルをとりたいという方もいらっしゃるし、自己充実の方もいますし。
志賀:やはり、やりがい感のある仕事、意欲を持ってやれるような職場づくりというのでしょうか、それはタイトルに関係なく大事だと思います。個人の能力をどんどん活用し、個人が能力を発揮していく、男性でも女性でも性別や国籍に関係なく、あるいは過去の職場に関係なく能力が発揮できる職場づくりというのが大事で、個人にフォーカスして、個人の能力を引き上げることによって会社の業績を大きくしていくという組織づくりをし、それぞれの持ち場で能力を発揮していただけるようなことが会社としてできればベストだと思います。
坂東:特に今まで多くの女性は偉くならなくてもいいわ、いい仕事ができれば満足なのよといって働くことによって、それがずっと習い性になってくると便利使いされてしまう。きちんとした評価がされないままそういう環境が続くとやっぱり腐ってしまうのですよね。「あなたがやっていることをきちんと見ていますよ」「評価しますよ」と、これが本当の新しい日本型のマネジメントであるべきだと思うのです。もちろん女性たち自身がどういうふうに自分の強みを持って、これについては絶対人には負けないぞというようなアピール、それこそ「見える化」するための戦略というのも必要だと思います。
生越:そうですね。自分でアピールというと出しゃばったような感じもありますが、やはりアピールって大事ですよね。自分はこれができるとか、ぜひやってみたいとか、こういうことを実績として上げているというようなことをきちんと言っていくことが大事だと思います。
坂東:これも言うは易くして実際はなかなか難しいですよ。シェリル・サンドバーグさんの「LEAN IN」という本の中でも、アメリカでさえバリバリ仕事ができる敏腕の経営者というのは、女性としはて余り好ましくないし、あまりお近づきになりたくないと。男性で敏腕でばりばり仕事をやっているというとああ素敵というふうに、自分たちがとらわれている部分というのは一朝一夕に変えられないとは思いますが、変えられないからこそ私たちは諦めないで少しでもそういう声を出していかなければいけないと思います。
生越:先輩たちの中には本当に素敵な方がいらっしゃいますね。強くて硬いだけだとぽきっと折れてしまうときがあるのですが、そうでなくてたおやかというか、柳腰というか、非常にうまく振る舞える、自分のいいところを発揮しながら、社会や企業の何か難しいことにもうまく対応できるという方々を見ていると、人間としてのバランス能力が大事だなと思うことがあります。
坂東:でも、どうしたらそういう能力が身につくかですよね。生まれつきだと言ってしまっては身もふたもないので、我々は本当に一生懸命転んだりひっくり返ったりしながらどうしたらそういう働き方ができるのかなと考えるのですよね。職場で役に立つようなノウハウ、特に女性達が組織の中ではこのように身をこなしたほうがいいですよとか、ホウレンソウとはどういうことか、組織や社会人についてきちんと教えることができるような場を日本の大学、できれば私の大学でつくりたいなと思っているのですけれども。
生越:ぜひ坂東さんにお聞きしたいですけれども、今の女子大生は、キャリア講座とか私たちの学生時代よりもはるかにそういう勉強を社会に出る前にしているように見えるのですが、その割に3年で辞めてしまうというのがちょっと理解できないのですが。
坂東:やはり社会へ出てからこれはもっと勉強しておけばよかったということがいっぱい出てくるのですよね。大学の中で、職場とはこういうものですと、畳の上の水泳じゃないけれども、幾ら理論で教わっても得心できないのですよね。だから、実際一回泳いでみて水というのはこんなものだと、社会へ出てからもう一度勉強し直すということをもっと日本はやらなくてはいけないのでしょう。企業が昔は鍛えてくれたけれども、これから企業が鍛えてくれなくなってきているのは目に見えているわけですから、自分で身銭を切って自分に投資をするということが必要じゃないかと思いますね。
志賀:大学卒業して新卒採用、それで何十年も同じ会社に勤めるというのは本当に絶対変わらなきゃいけないところですね。最初3年間ある会社で勤める、それも大企業じゃなくて中堅企業スタートでやって勉強して、そこでいろいろなものを身につけて次に転職してステップアップしていく、そういうようになっていくと、もっといろいろな勉強ができているし、自分の得意なものも見えてくる。そういうことが日本にも必要なのだと思いますね。
坂東:そのためには、大企業が中途採用でいろいろな経験を積んだ人を受け入れていただくというのをぜひお願いしたいですし、例えば女性でも、私は40歳ぐらいで子供がある程度大きくなった人が再就職しようと思うと、ほとんどパートとか契約とかというような仕事しかないのですよね。これもとても残念です。
生越:さて、もっとお話をお伺いしたいのですけれども、残念ながら時間になってまいりました。リーダーシップ111というシンポジウムでございますので、お二人におうかがいしたいのですけれども、「リーダーシップとは何か」について、そして、こちらにお見えになっていらっしゃる皆様に明日へ向かってのエールを、一言ずついただきたいと思います。
志賀:私は、マネジャーとリーダーとはやはり違っていて、リーダーというのはやっぱりビジョンを明確にして、そして人を引っ張っていき、目標としたビジョンを達成する、そういうことを先頭に立ってできる人だと思っています。そのために、私はこういうリーダーシップを持ちたいと、そのために自分を磨く、自分を成長させていくということが非常に大事だと思います。リーダーシップというのは、私はやっぱり誰かから与えてもらってやれるものではないと思います。マネジャーというような仕事は管理ですから誰かから与えられてできるかもしれませんけれども、人を引っ張っていって成果を上げていくという仕事は、自分がリーダーになるしかありません。自分の魅力や指導力で人を引っ張っていけないと発揮できない、リーダーシップというのは何かと言われると、私は自分を磨き成長させることと思っています。
坂東:リーダーにはいろいろあって一人ひとり違います。女性だからといって一括りにできません。その一人ひとりもライフステージによって違った状況になります。そういった多様な人の多様な状況に共感できるエンパシーを持つことを目標にできるかどうか。一億一心、同じ人が同じ目標のために走っていきましょうというのではなくて、みんなそれぞれ少しずつ違っている、いろんな自分の事情を抱えているんだけれども、そこは共感できるよねというような目標を提示できる。すると、そういう多様な目標というのは、金もうけをしたいとか、自分が立身出世をしたいでは誰も共感してくれません。やはり世の中を良くしたいと、自分たちのチームで及ばずながら頑張ろうと、それがみんなを共感させて奮い立たせるのでないかと。そういうことに目標を掲げることができる人がリーダーだと思います。
生越:私は、まず自分で常に自分を鼓舞して奮い立たせて、そして先頭に立って、あえて言うならば柔軟に挑戦し続けられる人、そういう人がリーダーシップをとっている人だと思っています。この柔軟にというところが非常に私にとってみるとキーワードです。
最後に、エールをということで一言ずつお願いします。
志賀:「LEAN IN」を読んだ後でなるほどと思ったのは、やっぱり一歩前へですね。
坂東:どんな小さいことでも何かやればゼロではない。私なんかが何しても世の中変わらないと言いたくなるのですが、ほんの少しでもやりましょう。その積み重ねが世の中を変えます。
生越:私もほんの少しでも積み重ねが大事だと思います。そしてもう一言、「チャレンジ」が自分に挑戦してくることがあります。皆さんに、もし何か挑戦するチャンスがきたらぜひ受けて立つ勇気を持っていただきたいと思います。
今日は、日産のお話をおうかがいし、女性の活躍を支援する制度や環境は整いつつあり、企業によって差はあると思いますが、いわゆるお飾りの女性の役員や管理職というのではなくて、実績のある人たちが育ってきていると感じております。企業にとって女性の活用というのはまさしく競争力の強化でもありますし、それから、成長戦略の源となっているということを実感しました。日本の労働人口の減少を考えても、女性の労働力というのは不可欠ですので、女性も自ら挑戦する勇気を持って、ビジネスの場では意思決定の場に少しでも多くの方々に参加してもらいたいと思います。そのためには、まず男女関係なく個人の力というのをもっともっと強化し、高めていって、そして個人が輝いている、そういった日本、強い日本というのを目指せたらと思います。
今日は、多くの皆さんに集まっていただきまして本当にありがとうございました。皆さんの心の中に何かのヒントとなることが残り、明日へのエネルギーとなれば嬉しく思います。