リーダーシップ111(ワンワンワン)


2013年11月8日(金)18:30から、女性就業支援センター(東京都港区芝5−35−3)4階ホールにて、「“個”が輝く日本へ 女性の活躍が『成長戦略』の鍵」と題するシンポジウムが開催されました。
最初に、日産自動車株式会社代表取締役副会長の志賀俊之さんから、企業の成長戦略あるいは競争力強化の一つとしての女性の活躍推進の取り組みとその成果についてスピーチをいただきました。その後、昭和女子大学学長の坂東眞理子さんとリーダーシップ111代表の生越多惠子を交えた鼎談では、女性が継続就業するために必要な環境整備に加え、組織の中で個人が能力を発揮し、キャリアアップしていくために必要なことについて、本音での活発なトークが交わされました。
以下に、その内容をご紹介いたします。

スピーチ/日産自動車株式会社 代表取締役 副会長 志賀俊之さん

皆さん、こんばんは。日産自動車の志賀でございます。
 最初にお時間をいただいて、企業の立場から見て、女性の活用が、企業の成長あるいは競争力の強化にどのような効率を生むのかということについて少しお話をしたいと思います。

カルロス・ゴーンがやってきた

 日産自動車の歴史を振り返ってみますと、ルノーとのアライアンスを提携したのが1999年3月で、90年代の最後の1999年は正直申し上げまして、ほとんど倒産の崖っ縁まで行ったのですが、1996年を除いて8年間赤字が続いていました。私が入社した1976年頃から日産自動車はずっとマーケットシェアを落としてきているという状態で、赤字が続く長期低迷の企業の代表選手だったわけですけれども、ゴーンが日産に参りまして、1999年の4月から働き始めました。その年の10月に日産リバイバルプランというのを発表しまして、その後、V字回復という形で業績が上がってまいります。1999年当時販売台数が250万台だった会社が、2013年度は520万台(見込)ということで、この14年間にほぼ倍のレベルの企業になったわけです。今、「日産自動車パワー88」という2011年から始まった6年間の中期経営計画に取り組んでおりますけれども、いったい日産のどこが変わっていったのか。1999年の日産自動車も、長期低迷をしていた間も、従業員は当時世界で12万4,000人ぐらいいたのですが、ルノーから来たのはカルロス・ゴーン、副社長2人と部長クラスで30人程度という規模です。ですから、ほぼ同じ従業員で1999年3月を境に、長期低迷企業が継続的に成長する企業に変わっていったということになります。

日産の何が変わったのか?

 では、何が変わったのかというと、一言で言うと組織文化が変わったということです。その中で、ダイバーシティというものが非常に重要だということを、私自身、強く自覚しました。
 実例ですが、1999年4月に私は日産自動車の経営企画室長になりましたが、ルノーから30人ぐらい来てもらった部長クラスから、経営企画室に一人だけフランス人の部長が来ました。ある時、日本人だけで、しかも当時は男性だけで会議をやっていて、いつものように最後に「今日はこれで、この結論でいいね」と言って、会議が終わったのですが、突然そのフランス人が私に、「何で結論がこれなんだ」と聞くわけですね。私は、「これ以外、何があるんだ」と、「これこれこういうことだろう」ということで普通に答えたのです。しかし、実はそこからフランス人得意のディベートが始まりまして、何時間やったか記憶がないぐらい遅くまでディベートをやるのです。当時、私はそれまで20数年間、日産自動車の中で育ってきました。日産自動車も日本の企業も大体そうですけれども、似たような大学を卒業し、上に出世していく人はいわゆるエリートコースを上がっていって、ほぼ同じようなスピードで昇進していきますから、大体みな同じ考え方になっているわけですね。そういうモノカルチャーの中でいろいろと判断をしているので、1人のフランス人が入ってきただけで、ディベートが始まるという経験をしたのです。もしかしたら90年代の低迷というのは、実は我々は日産自動車という常識の中だけで仕事をしていて、世の中の変化に気がついていないのではないかと思いました。

「多様性」を重んじる企業に

 ちょうど日産リバイバルプランが終わって成長軌道に乗ったときに、日産の経営会議のメンバーで、90年代の日産とリバイバルプラン以降の日産で何が変わったかと、その例を挙げようということで、『日産ウェイ』というのを策定したのです。5つの心構えと5つのアクションがあり、1つ目は異なった意見、考え方を受け入れる「多様性」を重んじる企業を目指そうというものです。せっかくルノーというフランスの会社と業務提携をしたのですから、「多様性」を重んじる企業になるということを企業の戦略の真ん中に置きました。
 「多様性」というと、女性の採用を増やすとか、あるいは女性の管理職を増やすとか、あるいは外国人を入れてみようとするですが、そもそもがモノカルチャーの組織ですから、そこに1人だけ入れても、異質な「個」の、個人の力は発揮されません。私どもも最初はそうだったと思います。たとえば、中途入社の方を受け入れるのですけれども、「実は前の会社ではこんなやり方をやっていました」という中途入社の方が言うと、「ここは日産だ。日産のやり方で仕事をしなさい」と。それですと中途入社で他から来ていただいている意味がないのです。女性に対しては、「会社が最近女性の活用と言っているから、ちょっと会議の最後に女性の意見を聞いておけよ」というような指示があって、「女性の方、意見ありますか」と聞いて、それで聞き流して終わりにするというようなのは、全く「個」の意見が活きていない状態ですね。「個」が本当に活きるようになってはじめて、「多様性」が戦略として活きるというのでしょうか、強みとして生きる会社になっていると。
 次は、この「個」が他者を刺激するということです。例えば、女性が入ることによって男性が刺激を受けるというような状態だと思います。私はこれを非常に大事にしていまして、効果は2つありまして、異なった意見や考え方を受け入れる風土をつくって、風土をつくることによって個人の能力が発揮できる、そして、その個人がもともと組織を構成をしていた人たちを刺激していくということ、これが非常に重要だと思っています。
 実は、私は、グローバル人材の育成というテーマの講演などでも、同じことを話しています。グローバルで競争力を高めるためには、「多様性」を組織の中に入れて、そして組織のイノベーションを引き起こすということ、これが非常に重要と思っています。その「多様性」を重要視するその第一歩として女性の活用を日産自動車として推進しているということです。まずは組織の中で女性の意見をしっかりと受け入れて、そして、それをいろんな意思決定の中で活用していく、そういうことができれば実は外国人が入ってきてもしっかりと受け入れて、そして議論ができるようになります。
 私は、「多様性」を受け入れる能力というのを共感力と常に申し上げているのですが、グローバル人材とは何かというと、異文化コミュニケーションができるということです。自分の意見をしっかりと持ちながら相手の意見をしっかりと受け入れ、理解して、双方の違いを明確にして、そして、この違いを埋めるためにお互いに建設的なディスカッションができると、これがグローバル人材だと申し上げているのです。海外で仕事をしても、中国でもインドでも仕事をしても違った考え方をする人たちを、「ここは日本の会社なのだから日本的にやりなさい」というのでは海外でも仕事ができません。

「個」を活かすということ

 そう考えますと「個」を活かすということは、要するに違いを認めるということと全く同じでして、実はダイバーシティを推進する、あるいは女性を活用するということイコール、その企業がグローバルで戦う競争力を有する企業になっていくということで全く根元が同じだと、正直そう思っています。日産自動車は、外国人の採用等をかなりやっておりますので、そういう意味では女性が活用でき、そして外国人も普通に働ける日本の企業ということで、それを日産の強みにしていきたいということであります。
 実際に、日産がどのような取り組みをしているかですが、商品企画の中で女性の視点をおりこむということ、あるいは生産の現場でも女性が入ることによって仕事がしやすくなって、さらに安全な職場をつくれる。販売の現場でも、営業の人やサービスの受付の人が女性ですと男女に関係なく顧客満足度が高い。これは全てデータで言えていることです。具体的に日産の女性の採用ですが、事務系については50%以上を、技術系については15%以上を女性にするガイドにしており、今年の採用は、事務系で54%、技術系でも20%まで、生産の現場の技能員も22%が女性になってきました。おかげさまで、女性の管理職も、10年前ダイバーシティオフィスをつくったときは1.6%だったのですが、ようやく今6.8%になり、これを何とか10%まで引き上げようということでいろいろ活動を進めています。
 具体的には、トップ直轄でダイバーシティデベロップメントオフィスをつくり、いろいろなことをやっています。管理職までは女性比率はそれなりに日本の企業の中では良い方ですけれども、約50人の執行役員のうち1人しか女性がいない状況で、ここで大変苦戦をしています。また、エグゼクティブに女性を引き上げるために、日本だけではなく、アメリカ、ヨーロッパで非常に能力のある女性をノミネーションして、その女性を育成するためのキャリアデベロッププランを我々経営会議メンバーが、1人ずつ何時間かかけて議論するということをやっています。また役員がメンターにもなっています。執行役員については、私は個人的には2016年の我々の中期計画が終わるまでは、さらに増やしたいということで、今育成に努力をしている最中であります。
 さらにもう一つ、トップダウンでのいろいろな数値目標をつけて管理職を増やしていくということだけではなくて、女性自らがいろいろな学びの場をつくっていくというようなボトムアップの活動というのも熱心にやっています。
 ダイバーシティを企業として進めていくためにはトップダウンのリーダーシップが絶対必要であります。CSRの一環としてやっておかなくてはというのではジェンダーダイバーシティは進まないと。そして、やはり女性自身も自ら学び、前へ一歩進み出すということ、そのボトムアップが組み合わさって進んでいくと思います。グローバルで勝ち抜く企業、まさに競争力そのものがやはり女性の活用に非常に依存しているというところでありまして、さらに日産としてそれが強みになれるように頑張ってまいりたいと思っております。