2012年11月12日、月曜日の夜、女性就業支援センター(東京都港区芝5−35−3)4階ホールにて、「グローバル時代の経営者が語る『多様な個性が日本を救う!』」と題するシンポジウムが開催されました。
閉塞感のただよう日本の社会の中で、企業にとっても、女性や外国人など「多様な個性」の人材を活用していくことは、生き残り戦略そのものとなっています。今回のシンポジウムでは、企業経営者のみなさんをお招きし、どうしたら女性の活躍が進むのかについて活発な議論が交わされるとともに、働く女性たちへの応援メッセージをいただきました。
内海:みなさん、こんばんは。私はリーダーシップ111、今年度代表を務めております内海房子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、「多様な個性が日本を救う」というテーマでありますが、先月、IMFのラガルド専務理事が日本の女性たちがもっと労働市場に進出すれば、自国の経済を現在の状況から救い出すことができる、まさに女性が日本を救うという強いメッセージを投げかけられたことは、まだみなさまの記憶に新しいことと思います。今日は会社の中で働く女性たちがどのように活躍しているか、また、活躍できないとしたら何が原因なのかといったことを、パネリストのみなさまからいろいろお話をうかがいながら、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。
早速ですが、パネリストのみなさんから、所属する会社の中で多様な個性を生かすことについてどのような取り組みをなさっているか、特に日本の場合は人口の半分を占める女性の活用に焦点を当てて、それぞれの会社の取り組みについてご紹介いただきたいと思います。そして、経営者のお立場から、日本の女性の活躍推進に関してのお考えも併せてお話しいただきたいと思います。
株式会社セブン&アイホールディングス 代表取締役会長 鈴木敏文さん
今、グループ内に事業会社が100社超ありますが、その中で主要会社が47社、その役員は総数357名、その内女性の役員が社外取締役等含めると32名おります。32名中3名が事業会社の社長の職についております。
どういう考え方で女性の役員を登用したかと言いますと、もともと小売業は女性の従業員が多いわけですね。お客さまも7・8割が女性です。そういう意味から、もっと女性を活用しなくてはいけない。そのためにはやはり女性を役員に登用することが一番いいと考えたわけです。しかし、最初から女性役員を何人も出すのは無理だろうという考えで、グループ会社の中でも中核の会社であるイトーヨーカ堂、セブン-イレブン・ジャパンから1人ずつ役員に登用することから始めたわけです。
新しいことを始めるときは、必ずいろいろな意見や批判が出てくるものです。こと人の問題については、登用された人が周りから圧力を受けて辛い目に遭うといった被害を受けるようなことがあってはいけません。そこで、最初は周りから押し潰されないような人を登用しようと考えました。私が直接選任したのではなく、人事にふさわしい候補者を推薦してもらって、その中から私が指名したのです。
こうして女性役員2名が誕生しました。当時は女性が役員に就くということに対して、批判的な見方もありましたが、女性役員が定着するには時間がかかるものだと思っていました。つまり馴染むまでに時間を要するということです。そのうち、徐々に会社の中でも馴染んできたあたりで、今度は店長に女性を登用することに力を入れ始めました。いまイトーヨーカドーは全国に178店舗あり、女性店長は14名おります。
店舗で扱う商品は、食品から衣料や住居関連までさまざまです。男性だけの部署もありますが、そうした部署も店長ですからマネジメントしなくてはいけません。最初はどうかなと心配しましたが、周りのみんなの協力もあって、プレッシャーを克服して頑張ってくれました。女性店長第一号に登用された女性は、それは大変だったと思います。
その後は、中核会社からだんだん女性役員を増やしていきました。ところが、事業会社の社長に「君の会社でも女性を役員に登用しなさい」と言うと、皆「わかりました」と答えるものの、すぐさま、「もう2年待ってください」とか「3年待ってください」と必ず言うのです。その理由を聞いてみると、その女性と同年齢の男性に役員候補がいると言うのです。彼のほうが仕事もよくできるし、マネジメント能力もあるので、女性を今すぐ役員に登用するのは無理だと言うのです。やはり潜在的に、みんな女性より男性を早く昇進させたいと思っているわけですね。その潜在意識に対して、私は「そんなことを言っていたら、いつになっても登用などできないよ。だから早く登用しなさい。せいぜい待っても1年だ。それ以上待たないよ」と働きかけたのです。
そうして、グループ会社でも女性を次々役員に登用していき、先ほど申し上げたように現在は32名の女性役員が誕生しています。今後も、このように徐々に増やしていき、少なくとも役員のうち3割くらいが女性役員であったほうが望ましいのではないかと考えています。
有限会社エクスプリム 代表取締役社長 マニグリエ真矢さん
私が来日したのは平成元年で、もう24年になります。フランスで日本語を勉強して、仕事をするために日本に来ました。西武百貨店、NTT、それから都市計画建設事務所ということでいろいろな仕事をしてから独立して、さまざまな職場を経験させていただいたのですけれども、15年前、エクスプリムという会社を設立しました。そのときに社名に選んだのも自分の名前を用いた真矢研究所、真矢デザイン事務所ではなくて「エクスプリム」という名前にしました。「エクスプリム」はフランス語で「言いあらわす」「表現する」という意味で、グラフィックデザインの会社またはクリエイティブディレクションを担当する会社ということです。自分を表現するだけではなく、お客さんのニーズ、お客さんのメッセージを自分のフィルターを通してどう表現するかということをテーマにしたいと考えたためです。現在は、フランス人として、女性として、日本にいる外国人として何ができるかということを課題にし、日仏のチームでさまざまなプロジェクトに参画しています。
まず、私は日本にいるフランス人としてできることとして、日本にはフランスの文化を伝えていくこと、日本の文化をフランス人に紹介するという橋渡しを務めさせていただきたいと思って活動しております。
私は、女性であり、フランス人であるということよりも、自分であるということが仕事を任せていただいていることにつながっているかと思います。また、私一人で仕事をしているわけではなく、私のチーム、もちろんそれは会社の中の社員のチームもそうですし、一緒に回りに仕事をしているさまざまなクリエーターの方々です。そういう意味で彼らは下請けということではなくてパートナーです。よく日本では下請けと言われるのですけれども、外注ということではなく、彼らの能力、彼らの才能をどう生かすかということも一つの自分の才能であると思って、パートナーの方々とつくっているそれぞれのプロジェクトです。
今に生きる日本の文化を楽しむ、もう一度自分たちのものにしていくということをお手伝いするということは、非常に楽しく、いろんなところで生かせていただいています。いろいろな先生方や職人の方々に会いますと、「これは何ですか」「これはどうしてですか」「これを教えてください」と、私は結構質問します。日本の方はやはり「あなた日本人だから知っているのは当たり前でしょう」と考えて質問しづらいところでも、私は外国人なので、わからないのは当たり前ということもありますし、先生方、職人の方々も伝えたいことがあるのですね。だから、そのことが質問されて、またいただいたその知恵を私のフィルターをかけて、またみなさんに伝えていく。そのことが自分のいろいろな活動の中で強い信念として持っているものです。
いろいろな日本の文化がつながっているということに気がついて、またそれも自分がクッションになれば、フィルターになればと思っています。
株式会社資生堂 代表取締役会長 前田新造さん
現在、日本は人口減少社会に入ってきておりまして、企業はこれまで売上高とか利益といった競争から、今はまさにお客さまの満足をめぐる競争に入ってきていると思います。そのような時代に益々重要な鍵を握るのがまさに社員です。加えて、近年、急速に日本企業のグローバル化が進み、継続的、計画的にグローバル人材を育成していくことは重要な経営課題の一つになってきております。本日のテーマである「多様な個性が日本を救う」という点においても、まずは多様な価値観を受け入れ、理解し、深め、尊敬し合うという風土が大切で、この多様性への対応こそ、グローバル化に向けて日本人あるいは日本企業が克服すべき経営課題だと認識しています。ジェンダーに限った話ではありませんが、最も身近な存在である女性社員の活用、活躍支援という点において、日本はまだまだ課題が多いと言わざるを得ないと思います。
一般的に女性の活躍が進んでいる企業ほど経営パフォーマンスがよいという調査結果があります。しかし、管理職の女性比率を海外と比較をしますと、他の国では3割から5割近くになっており、1割程度にとどまる国は日本と韓国だけで、世界の多くの国々では女性管理職の活躍は既に当たり前になっています。さらに取締役に占める女性比率を調べた調査によりますと、こちらも日本は38位で、わずか1.4%と最低ラインになります。調査対象42カ国の中でトップはノルウェーの44.2%であります。当社の場合は、本年の6月以降、取締役と監査役を合わせたボードメンバー13名中女性が3名、女性役員の比率は23%と老舗系の企業と言われる中では比較的高いほうではあると思いますけれども、不安定さは否めません。
日本政府は、2020年までに社会のあらゆる分野において指導的地位の女性が占める割合を30%にするという目標を掲げています。当社は圧倒的に女性社員が多い会社ですので、これを7年前倒しして、来年の2013年に達成するという目標を掲げて、あらゆる制度、施策を導入してきました。2000年には管理職の女性比率は5%程度でありましたけれども、本年10月時点でやっと23.9%になってまいりました。これは日本の企業としてはやや高いほうであると思いますが、当社の海外の現地法人を見ますと、約59%になっています。化粧品メーカーという業界の特性、またグローバル基準で見たときに国内の24%というのは残念ながらいまだ低い数字であると言わざるを得ません。
当社では「クオータ制」ではなく、「ゴール・アンド・タイムテーブル方式」のポジティブアクションを採用しております。これは、女性の育成は急ぎますけれども、評価や登用の場面で男女の区別なく公平、公正に評価をして、特別に女性を優遇する訳ではないということをはっきりとさせるためでありました。女性優遇は男性への差別になるばかりか、女性自身も望んでいないと認識しております。大切なことは、目標を掲げた背景にある本質的な問題を解決することであり、30%という目標達成ありきではない、ということだと思います。
その本質的な問題とは、男性側の意識改革はもちろん大切で必要不可欠ではありますけれども、女性側にも「所属する企業や団体の制度をしたたかに活用して、途切れることなく、いかに自身のキャリアを形成していけるか」ということ、「責任あるポストについて、そこでしっかりと成果を出していく」ことが大切で、そこに男女の差はありません。
制度は整備するだけでは不十分で、実際に活用されることが何よりも必要になります。そのため、「出産後も女性社員に活躍してほしい」と会社が期待していることや、周囲の社員もそれを理解し協力する風土の醸成、そして、制度を利用中の社員もそれを実感して自ら、次の世代に対しても両立を支援することを定着させていくことが大事です。そして、女性社員にも若いうちから仕事のおもしろさを経験してもらって、「育児をしながらも仕事を継続したい」と考える、「仕事を通じて自分も成長する」という思いが強くならないと、制度があっても本当の意味で機能はしないと思います。だからこそ、難しい仕事を与える、あるいは多様な経験を積ませる異動が重要になってくるということで、当社のアクションプランでも管理職候補の女性の一人一人の育成計画を人事部と上司が相談して策定するようにしております。
最後に、当社はさまざまな両立支援策を講じた結果、何とか仕事と育児が両立できるという、行動計画で言う第2段階から、子育てしながら管理職として、また専門職としてキャリアアップすることができる第3段階に入ってきたと考えています。この段階では女性の活躍の質が問題になってきます。そして、男性社員においては、当たり前のこととして子育てや介護にもかかわれるような段階であり、男女ともにワーク・ライフ・バランスが大切になってまいります。
この先、日本企業に求められていることは、女性社員の活用から一段先、急速に進行する超高齢化社会を支えていくため、男女ともに働き続けることを前提とした社会づくりが必要になってくると言われています。介護休暇、介護時間などに関する制度の設計、整備のほうがこれからより複雑で困難な問題になってくるだろうと思います。まさに多様な個性、多様な働き方が日本を救うということで、女性の活躍を企業の成長の原動力にするといったことは当たり前の時代になってくると思います。ここからが日本企業の真価が問われるステージだと思っておりますので、一人でも多くの企業経営者がこの点でのリーダーシップを発揮されて、多様性への対応力を備えていっていただければと願っております。
NTTコム チェオ株式会社 代表取締役社長 小林洋子さん
1975年の国際婦人年が、世界の潮流をまず変えました。当時、電電公社でも、何とか女性を本格的に活用しなくてはならないということで、翌年から継続的な女性のキャリア採用が開始されました。私はその3期生です。国際婦人年から10年ぎりぎりの間際で均等法ができ、そして、画期的だったのは、政府が「2020年までに、指導的地位に占める女性の割合を3割にしよう」と2003年に宣言したことです。NTTでは、2008年にダイバーシティ推進室を設置し、「働き方改革」などもやっております。NTTというのは男性の、技術の会社だったので圧倒的に女性は少ないのですけれども、少ない中でも、女性の活躍を欧米並みに持っていくには時間外労働を抑えなければいけないとか、生産性を上げるとか、在宅勤務とかいろいろなことをやっています。2,000台のタブレット端末を配付してICT環境を整え、すき間時間を活用して仕事する、育児休職を男性にもどんどん取得してもらいましょうというようなことをやってきております。育児に関する制度、出産して長く勤められる制度などは整っています。NTTデータやNTT東日本には託児所もあります。とんがっていないけれども、全体的に優等生的なのがNTTグループの特徴とでも申しましょうか。
日本でのダイバーシティの潮流を変えるという意味で、今年発表された経済同友会の『「意思決定ボード」のダイバーシティに向けた経営者の行動宣言』は、極めて画期的だと思います。今まで国が幾ら何を決めても、経済会の重鎮の重い腰は上がらなかったのですが、そんな中で初めて民間の経営者が『2020年までに、女性役員の登用も視野に入れ、「女性管理職30%以上」の目標を、企業が率先し達成するために努力する』ための具体的な行動宣言を出したのですから。
一番身近なダイバーシティはやはりジェンダーです。女性の活躍というときに3つの視点があると思います。1つは企業が出産と子育てをしやすい環境、産んでも仕事を続けやすい環境を整備する。2つめは、企業が女性社員の中から管理職そして役員を引き上げていく。この2つは、会社の組織の中でのことです。3つ目は、会社以外での多様な働き方について、これを少しお話したいと思います。
すでに10年以上の実績がある「バーチャルコールセンター」のしくみです。NTTの「OCN」は800万会員を越える日本最大のインターネットサービスですが、そのテクニカルサポートに「パソコンがつながりません」というような電話が年間約300万コール来ます。かなり難しい内容を聞かれますが、これに答える仕事です。フリーダイヤルにお問い合わせの電話が入ると、クラウドの仕組みでまず日本全国に散在する個人事業主の自宅へ届きます。顧客情報を見なくてよいものはそこで技術サポートが完了しますが、顧客情報が必要なものは、仙台にある大きなコールセンターに転送します。日本全国をまたがる巨大なテクニカルサポートセンターのようなイメージが、「バーチャルコールセンター」です。もちろんセキュリティも顧客満足度も万全です。在宅で働く個人事業主には女性も多いのです。出産を契機に退職した方、事情があってシングルマザーになった方、介護中の方、定年退職された方など。ノルマはなく、1日何時間でも月に何日働いてもいいので、家でやらなくてはいけない事と仕事との両立ができます。
この仕組みは企業にとっては究極のBCPでもあります。仙台のセンターが震災で被災し、避難命令がでたときに、普通のセンターでしたら、オペレーターがいなくなるのですから応答率ゼロになるのですけれども、我々はそのときに西日本の在宅就業の方々に携帯メールで緊急連絡をしました。「仙台センターは被災しました、西日本の皆さん、業務支援をお願いします。ログインして下さい!」そしたら、みなさん家事や育児や介護などやらなくてはいけないことを後回しにして、ログインしてくれたのです。1時間後の応答率は92.3%まで回復しました。このような非常に意識の高い方々が在宅就業で1,900人働いています。
在宅就業スタッフと話をして、多様な働き方というものを強く実感しています。この方たちは、とても難しいインターネット検定に合格し、OCNのテクニカルサポートでお客さまに何を聞かれても答える、自ら勉強されてプロフェッショナルとして活躍されています。
ICTでつなぎクラウドの仕組みで実現しているこの在宅就業のスキームは、労働市場における社会的弱者が能力を発揮して大きな事業を支えている実例です。就業における諸問題、例えば出産か仕事かの二者択一、いわゆる女性労働のM字カーブ、介護、定年、障がい、ひとり親、リストラ、新卒就職難民。それから、地方在住で勤める会社が少ないなど、こういう問題を在宅就業という発想によって、解決できる。もちろん女性たちには長く会社で働いて欲しいですが、かりにそれが叶わなかった場合でも、意欲さえあればプロフェッショナルな仕事ができる仕組みを、多様な働き方への取組みとしてご紹介しました。