ディスカッション
内海:それでは、各パネリストの皆さんからお話をうかがったところで、先ほど前田会長の資料の中でもありましたように、日本の女性の女性管理職比率や女性役員比率はとても低く、女性管理職の比率は9.4%、役員に至っては1.4%です。他国と比べると、極端に低いというのが今の日本の実態ではないかと思います。
今日は、外国人の目から見た日本のこの状況、ほかの国の女性たちと私たち日本の女性たちと何か違うところがあるのか、その点について真矢さんにお話しいただきたいと思います。
真矢 来日した当時の西武百貨店、NTT、それから都市計画建築事務所などは、ほとんど男性の方で、女性は基本的にいわばお茶くみ、25歳までということが基本でした。最初に非常に驚いたのが、残業禁止と言われたこと。当時百貨店の催事を担当していましたけれども、百貨店は閉まっているときしか実施できないのに、残業できないのにどうやって私のプロジェクトを管理するんですかということ。
こう言いながら、OJTでその世代の方々に育てられた自分ですが、8年で6企業の日本の組織の中で働かせていただいて、その中でいろいろな能力や才能のある方でもやっぱりそれを咲かせられないという環境であると感じたことが多かったですね。だから、独立して自分でできることをもっと自由にやりたいなということでした。
フランスでは、日本に比べて、女性の職業能力を求める環境が当時でもそろっていましたよね。当時でも日本には転職ということは余りなかったですけれども、今でも女性の転職ということは非常に難しいということは言わざるを得ないなと思います。
また来日した当時に会ったおかみさんというプロの中のプロに感動しました。すごく女性らしさを極めた方ということがとても魅力的だったですね。究極の女性でありながら、プロの経営者である。外見も美しいお姿ということで自分ももう少しにこにこしなくちゃいけないなということなど、教えてもらったことは多いですね。
その中で真似しても仕方ないけれども、自分の力、自分の能力をどう表現していくかということが課題でした。起業するにも自分のパターン、自分のタッチを出さないと、男性の方と同じことをしようとしても男性ではありませんので、できません。やっぱりフランスで育った以上はすごくそう思っていたので、だったら自分は、女性、フランス人、日本にいるその都市でできることを探しながらやってきました。
内海:ありがとうございます。日本の組織の中で、女性は花を咲かせたくても咲かせられないような状況だと。その中で女将さんというのはプロの中のプロ、経営のプロというふうに感じられたというのは、女性というのがやはり経営あるいはマネジメントの才能がないということはないとお考えですか。
真矢:そうですね。もちろんそれぞれの女性、男性にそれぞれの得意、不得意分野があると思います。日本の女性にはそういう才能がないということは一切ないです。私は、大学でマーケティングとか経営は学んだわけではないですが、大事なのは自分が何をやりたいかということ。マネジメントはだれにでも、日本の女性、男性にもできることだと思いました。
内海:ありがとうございます。マニグリエ真矢さんがちょうど日本の組織で働いていらしたころ、1993年に、先ほど鈴木敏文さんのお話の中にありました女性役員を2人登用したというお話がありました。この女性役員は、実はリーダーシップ111の会員で、イトーヨーカドーの水越さん、セブンイレブンの山口さんというお二人です。ここで鈴木さんにおうかがいしたいのですが、日本の社会では女性を登用するというときに周りの男性の意識が問題で、女性に務まるのだろうかという心配もありますし、先入観があってなかなか女性を登用するということに後ろ向きの人も多いかと思います。鈴木さんの場合は、会社の中で、周りの不協和音やみなさんの抵抗にどのように対抗していらしたのか、その辺のところをお話しいただければと思います。
鈴木:先ほどのお話を少し補足したいと思います。日本社会は今でも、入社年次によって役職が決まっていくのが慣例です。例えば官庁には、何年卒、何年入省というものがあります。いわゆる入省年次によって、昇進昇格が決まるわけです。多くの日本企業もまた、入社年次によって役職が決まっていきます。今でもそうした文化が根強いということを、理解しなくてはいけません。それをただちに外国と同じような実力主義にするのは、なかなか難しいことだと思います。もちろん、将来的には、年次主義から実力主義へと変えていかなくてはいけないとは思いますが。
私は先週の木曜日まで、アメリカのダラスにある米国のセブン-イレブンの本社に出張で行ってまいりました。現在、アメリカのセブン-イレブンの店舗は7,800店あります。
アメリカのセブン-イレブンでは女性の登用がどうなっているのかと言いますと、役員には女性をまだ登用しておりません。しかし、日本で言う部長クラスには女性が多く登用されております。やはり皆いい仕事をしているわけです。その女性部長のもとで、たくさんの男性の部下が仕事をしています。そのこと自体、社内で何も問題は起こっていないということです。
私は、長い間人事を担当してきました。その時に「彼は何歳になったから昇格させよう」「何年に入社したから昇進させよう」ということが、やはりありました。しかし、私はできるだけ入社年次や年齢で考えないようにし、「彼は仕事ができるからやはりこのポストに就けよう」「経験を積ませるためにこのポストからこっちへ移そう」というような抜擢をやってきました。下からぽんと年次を飛ばして昇進させたわけです。私自身はもともと、年齢や年次に捉われず、男女も関係なく、力のある人は引き上げていこう、そういう考え方があったように思い間す。
最初に女性2人を役員に登用したことについても、女性の管理職にいろんな仕事を担当させてきたことについても、今となっては、それほど無理がなかったと思っています。また、周りもそれに対して、直接問題提起をしてくることは少なかったですね。やはり、それぞれの会社において、トップがどういう考え方を持つかです。それによって、壁というものは破られると思います。
それから、女性の立場から言うなら、やはり仕事に対して挑戦する意欲を持つことが大切だと思います。自分に任された仕事をやり抜くという意欲を持っていれば、だんだん周囲の人は認めるようになるものです。今までとは違って、これからは女性だからと言って、それほど大きな障壁というものは少なくなっていくのではないかと思います。
内海:ありがとうございます。トップがどういう考えを持つかということがその壁を破ると。また、女性自身もやり抜く意欲を持つこと、この両方が合わさって女性の登用が進んでいくというお話でした。
それでは、この女性役員がなかなかふえていない1%足らずといったところで、そのまさに女性社長である小林洋子さんにも少しお話をうかがいたいと思います。小林さんは先ほどご紹介の中で電電公社という大組織に入られて、いろいろ苦労もおありだったと思いますけれども、今の小林さんがあるのはどういうことか振り返って少しお話をいただければありがたいです。
小林:まず、運がよかったですね。人に助けられました。例えば上司にものすごいチャンスをたくさんいただき、それから先輩、特に女性先輩には足を向けて寝られないくらい助けていただきました。人生でいろいろ悩んだ時、若いころ上司にいじめられたといって、もう会社をやめようと思った時、あるいはNTTコミュニケーションズの役員になれるかなれないかという時も女性先輩のアドバイスでものすごく助かりました。あと、同僚はほとんど男性ですけれども、彼らも助けてくれて…、でも一番大切なことを教えてくれたのはやっぱり部下ですね。
振り返って、あえて自分で頑張ったことを一つだけ言いますと、チャンスが来たら絶対にノーと言わなかったということです。例えば入社して3年目にいきなり大阪に転勤と言われて、「えー!?」みたいな感じじゃないですか。でも、「わかりました。はい、喜んで!」と、居酒屋の店員みたいに元気良く答えて行きました。後になって、「あのときは言えなかったけれども、女性の君を使うか使わないかは中で議論した。意見が分かれたんだよ」「あのとき断っていたら、女性は二度と使わなかった」ということを言われました。ですので、みなさんいろんなチャンスが自分にまわって来たとき、できないと思っても、とりあえずやってみたら何とかなりますので、チャンスが来たら必ずつかむ。後に続く女性たちのためにも「はい、喜んで!」と、それだけはお願いします。
内海:小林さんの資料の中で先ほど在宅でのプロフェッショナル、いろいろな理由で外に出られない方のためにお仕事の機会を与えていらっしゃるというすばらしいお話をうかがいました。でも、あえて申しますと、その分女性を家に縛りつけることになるのではないか、男女の役割分業を助長することにならないかといったことがちょっと気になったところでありまして、その点も含めまして、この在宅のお仕事についてお話をいただけますでしょうか。
小林:在宅で就業できる環境を整えることで女性はやめてもいいよねと、あるいは男女の分業につながるようなことになりはしないかと、そういうご懸念ですけれども、それは違っていて、なぜかというと、この在宅の電話オペレーターは女性が6割、男性が4割、オンサイトサポートは女性が1割、男性が9割です。女性に限定していないんですね。何らかの事情で家に居ざるを得なくなった、もしくは人生の自分の選択として別にそう逼迫はしていないのだけれども、自分を主役として組織に縛られずに頑張りたいという男女の、まさに多種多様な選択にこたえられる就業形態だと思っております。なので、それは決して女性を縛りつけるための安全装置としてワークするものではないと思っています。
内海:わかりました。ありがとうございます。関連して今度は前田さんにもお尋ねしたいのですが、第2段階の「女性はかろうじて仕事と子育てを両立」から今は第3段階の「男女ともに子どもを育てながらしっかりキャリアアップを目指す」というのが理想とする段階だと思いますが、小学校3年生まで育児時間という大変手厚い制度も、男女の役割分業を助長するのではないかという心配があります。手厚い制度は、男性が育児参加をしていただいて、男女ともにキャリアアップということが実現するのだろうと思います。最後の第3段階の第3次行動計画の中で「男女とも」とおっしゃられましたけれども、やはり男性が育児参加をしなければ女性のキャリアアップは難しいと思うのですけれども、その点は資生堂さんではどのようになさっていらっしゃいますか。
前田:小学校3年生までの育児時間という制度を入れているのは、子育てのいろんな過程の中で常に、仕事が両立できなくなるようなことを極力避けていきたいと。意外と小学校に上がりましても3年生ぐらいまでというのは、例えば、犯罪等の防止の観点から学校や地域社会からの要請もあり、お母様方、お父様方が輪番制で送り迎えをしていく。それは大体どこの小学校でも義務づけられているところがあり、それに手をとられるということもあって、両立をしていくことへの支障があるのではないか。だったら育児時間は小学校3年生ぐらいまではあってもいいのではないか、ということが背景にあります。
制度が手厚くなることで役割分業を助長しているのではということですが、確かに育児時間の取得というのが昇進や昇格とかのハンデになったり、あるいは取得することで給与格差の拡大につながるのではないかということは、全く否定はできないと思います。でも、問題の本質はまた別のところにあるのではないかと思っていまして、もう少しマクロで見るなら、やっぱり日本というのは伝統的に男と女の分業的な仕事があった歴史があると思うんです。会社の中でも、「男仕事」「女仕事」と。ベースに男社会が形成されているという中でここまで来ているのではないかなというのが1点。
2つ目は、ある調査では6割以上の女性が専業主婦を希望しているというデータもありますよね。日本人固有の職業観、人生観みたいなものがやっぱりまだ消え去らずに残っている部分も作用していると思うんです。企業の中ではその職業観みたいなものを、取り除いていくということがとても大事なことになるのではないかなと思います。
それからもう一点は、海外と比べて日本では男女間の給与の差がやっぱりまだ少し残っていたりします。そうすると、育児時間を取得するときに、給与から減額されるベースが小さいほうが家計負担も少ないわけですから、結果的に女性の取得のほうが多くなると。給与格差を生んでいるということが育児時間の取得に少し影響しているのではないかなと思います。
一方で、やっぱりまだまだ子どもを育てるのは女性だという意識は、なかなかこれはそうそう簡単に払拭できないところがあるような気がします。男性社員も女性と同じように育児に参画をするということは、この第3次行動計画の段階ではもう大前提なのです。当社も勿論、男性の育児休業、育児時間の取得を進めていますが、たくさんいる男性社員に声をかけると年に20人ぐらいですが、経営者がちょっとでもサボっちゃうと一気に一けた台に落ちるんです。これは大変残念なことで、先ほど鈴木会長がおっしゃったように、やっぱり経営者のメッセージというのはすごく大事です。
第3段階に入るというのは、本当に働き方のスタンダードを変えていくことです。「専業主婦に支えられて、幾らでも働くことができた男性型のビジネスモデル」みたいなものを、「時間制約のある共働きで、それぞれの役割を完全に遂行していく」、まさに抜本的な転換をするということで、第3段階が一番ハードで難しいと私たちも思っています。
たぶん、私は次のステップは介護だと思うのです。介護になると、もう男の出番です。男性が出ていかないといけないと思うのですが、男性は免疫がないんです。育児休業、育児時間をとったことがないからです。とったことない人が一気に介護休業になったときに、結構、精神的にもダメージが大きいんじゃないか。そういう意味でも育児休業もしっかりと今の段階からとって、介護休業に備えていくぐらいのことがやっぱり大事なんだろうと思います。
内海:会場から拍手が出ました。本当にそうだと思います。なぜ介護は男女の問題、ほとんど女性が担っているとはいえ、男性にも関係がないことはないと皆さんが認識しているにもかかわらず、なぜ育児は女性だけという認識がまだまだ日本の社会に浸透しているのかというのを大変残念に思います。ぜひ男女ともに子育て、キャリアアップ両方を男女ともにやっていくという会社、社会になっていきたいなと。先ほど男女の賃金格差のお話がありましたけれども、これも女性がなかなか管理職、役員にならないから男女の賃金格差が出てくるわけで、鶏が先か卵が先かみたいな話だろうと思うんですね。日本はその問題でぐるぐる回っているのかなという感じを今までのお話の中でいたしました。
では、どうすれば日本の女性活躍が進むのかという点について、お一人お一人からご意見をうかがいたいと思います。まず、鈴木敏文さん、日本の女性活躍がどうしたら進むのかというその知恵をぜひお話しいただきたいと思います。それからもう一つ、今日、参加の女性たちに、では私たちは何をしたらいいのかというメッセージをお話しいただけますでしょうか。
鈴木:今、西武百貨店で1店舗、それからイトーヨーカドーの中で1店舗、店長はもちろんのこと、働く人たちのほとんどが女性社員という店をつくっています。男性社員はセキュリティー担当とアルバイトのみです。なぜそういうことをしたかと言いますと、女性だけで何でもできるんだということを当の女性自身に自覚してもらうためです。それと、男性含めて全社員に女性だけでもできるんだということを認めてもらうためです。
そういう店舗をつくって半年以上経過していますが、女性からは、男女一緒のときよりも、女性だけのほうがコミュニケーションがずいぶんよくなったという報告が上がってきています。例えば、男性の上司だと言いにくいことも、言いやすくなったとか、女性同士ですと、ある程度価値観が近いですから、話しがスムーズに進むとか、或いは、上下関係をあまり気にせず、いろいろな意見が言えるようになった等、コミュニケーションがよくなったということです。ただ、女性だけでは難しいこともあるはずです。例えば、力仕事については、男性なら1人でできることが、女性だと2・3人でやらなくてはいけない、ということも出てくるでしょう。
しかし、そこに何か創意工夫が生れてくる筈なのです。何かを変えるという時には、覚悟も必要だと思います。様々な場面で、「女性だけでもできるんだ」、あるいは「女性が役員であろうと社長であろうと別に問題なんてないんだ」ということを、みんなに認知させることが必要だと思います。
そして、最後にもう一つ、やはり女性が自信を持つことが大切です。「私にも出来る」ということを自分に言い聞かせることが、一番重要ではないかと思います。
内海:ありがとうございます。女性の皆さんに自分でできるんだという自信を持つという、大変心強いメッセージをいただきました。
では、続きまして、マニグリエ真矢さん、お願いします。
真矢:ちょっと前置きとして一つだけ申し上げたいのが、フランスは男女平等という基本がかなり前からできているのですけれども、その中で今、多くのフランス人女性が失ったことということを自分たちも認識していることがあるんですよ。それは主婦になる選択肢がなくなったことです。それが一つ。自分が女性として自立するということが一つの選択肢であるんですけれども、専業主婦であることも選択ということ、その選択をするならば、それを極めて、とことん積極的に本気になってやるということが一つの立派な務めということです。
だから、今、日本の社会、企業の中では男性社会というのは事実なんですけれども、すべて今の日本の社会が悪くて、全部西洋の社会と同じものにしなくてはいけないということではなく、日本独自の解決方法を見つけるべきだと思います。今、日本は本当に境目のところに立っていて一番難しいところで、どう日本的に変わるか、解決する方法を見つけるかということが経営者の男性方だけではなく、全員の責任です。
最近、月詠み会という会を主催し、女子会を経験させていただいている中で、自分でも驚いているところが、とても協力し合い、解決がものすごく早いですね。競争し合うということではなく、協力し合って、解決方法を無駄なくどんどん進むということが確かに先ほどおっしゃったように女性同士のこれは日本独特だと思います。協力し合ってぱぱっと進めましょうねということが、改めて私も感じるところなんです。
男性の経営者の方々とか管理職の方々にメッセージがあるとしたら、女性がくたびれる前にポストをあげてくださいということ。もうそのポストにたどり着いたら、もう力尽きるんですよ。いっぱい能力を持っているもののそれを使わないということは経営者としてはどこか失格だと思います。だれにでも得意、不得意があるのです。だれにでも才能があって、その才能が違うだけなのです。女性として、女性であることを見失わないで、自分らしさ、自分にできる仕事を探すことがすごく大事です。1人で探すのも大事ですし、周りの人に助けられるこというのはいっぱいあると思いますので、まさに既にその道を歩いた先輩ということがすごく大事だと思います。
そういう意味で、女性であることは一つの才能です。それを極めて、いっぱい使っていくということをしないともったいないです。それこそ「平等」ではなくて、私は一つの自分のキーワードが「対等」だと思うんです。「対等」ということはお互い尊重し合って、男性も女性をそんなに怖がらなくていいんです。一緒にならないと次の世界もつくれないです。
そういう意味で、女子会だけでも、男子会だけでも、どっちも無理なんです。両方あって初めて成り立つものなので、お互い認め合って話し合える、また面と向かってそれができることがすごく大事です。それぞれできることということを認めるということです。最終的にお互い人間として認め合えることが一つのかぎではないかなと思います。
内海:ありがとうございます。女性であることの才能と、ずいぶん勇気づけられるお話をいただきました。それでは、続いて前田新造さん、お願いいたします。
前田:どうすれば女性の活躍が進むかということですけれども、大きく2つ改善していく必要があるのではないかと思っています。
まず1点は、出産・育児を理由に仕事を辞めてしまう人をなくしてしまうこと。つまり絶対にキャリアを途切れさせない、このことがとても重要になると思います。ある調査によりますと、出産・育児から復帰して再就職をするときに、大半は非正規になるそうです。一旦辞めて仕事に復帰はしたが、今度は非正規でといった方が大変多いと言われております。したがって、キャリアをそのまま続けてもらう準備はしっかりと企業がやるということが大事だと思います。その改善をすることだけでも日本経済の底上げにつながっていくのではないかなと僕は思います。加えて、女性従業員の勤続意欲をずっと醸成し続けていくということも大事で、同時に社員のワーク・ライフ・バランスを徹底して追求していける体制を進めていくことではないかと思います。
当社の一つの例でありますけれども、店頭で直接お客さまに美容相談をするビューティーコンサルタントという職種の人がいます。ほとんどが女性ですが、今は退店時間が大変遅くなっています。夜中の8時、9時とか。そうすると、そこを担当するビューティーコンサルタントで育児時間をとっている人は、夜遅くまでできないわけですね。そうすると、その時間帯は独身の女性か、もう子育ての終わっている人になる。このため育児時間取得中の人が5時になったら帰ってしまうと不公平感が出るというようなことがあったりして、その時間帯以降は代替をしてくれる要員を我々で採用して送り込むことにした結果、出産・育児を理由にやめる人はもうほとんどいなくなりました。ゼロに近いですね。それ以上に大きな収穫というのは、社員同士が仲間で助け合うということに気づいて、思いやり、チームの力というのが芽生えてきたのではないか。今、子育てをしている人たちを私たちが支えているけど、いずれ私も支えられる側に回る。人間というのはそういうふうに支え、支えられる、それで成り立っているものだということを気づいてもらえたことは大変大きな収穫だったのではないかなと思います。
2つ目は、何といっても先ほどの労働時間の短縮、労働の柔軟化というのがとても重要になると思います。労働時間の短縮というのは、まさに仕事の棚卸しをして、優先順位をつけて無駄なものを思い切ってやめていく、ということを進めていかなければならないということだと思います。
最後にメッセージでありますけれども、まず女性の社員に対してお話しする前に経営者の方々にお話し申し上げたい点がもう一つあります。多くの社員、女性の社員、男性社員区別なしに、やはり「会社が期待をして必要としている」ということを常にきちんと伝えるということがとても重要になると思います。
一方で、享受される社員の方々もみずからの意識を変えていただく必要もある部分があります。それは、キャリアは主体的に設計して、自らつかみ取るものであるという意識を持って、そしてキャリアはいろんな経験を重ねてアップしていく、ということを認識することではないかと思います。特に育児期の社員の方々にとっては、セーフティネットとして会社が用意した両立支援策を利用しなくては仕事が続けられないという人は、もう遠慮なく利用する。しかし同時に、制度を当然のように利用するということではなくて、むしろ自身の仕事に軸足を置いて継続的にキャリアアップしていくことにつなげてほしいということです。個人においても時間当たりの生産性を高めていくというのは、育児時間に限った話ではなく必要なことでありますけれども、例えば育児時間をとることで所定勤務時間の8時間が6時間になったので、6時間分の仕事をすればいいというのではなく、6時間の仕事の中でいかに8時間分の仕事をこなしていくか。したたかに制度は利用しつつも、制度に甘えることなく効率のいい仕事をするということがとても重要になってくるのではないかと思います。
内海:ありがとうございました。もう明日からの私たちの働き方にヒントをいただくようなお話でした。最後になりましたが、小林洋子さんからよろしくお願いいたします。
小林:まず、どうすれば日本の女性の活躍が進むのかなんですが、「女性の活躍」の場は別に企業に限られたものではなく、例えば地域で活躍する、NPOで頑張る、ボランティアで頑張る、それから、先ほどの個人事業主、在宅就業の話をしましたが、それで頑張る、あるいはプロフェッショナルな主婦になって頑張る、すべて活躍だと思います。だから、それは自分の人生ですから、個々の人生でそれぞれ輝けば、活躍すればいいのです。
ただ、女性が活躍できない企業に未来はないですから、未来がないということを自覚した企業としては、自らの生き残りのために女性に活躍をしてもらわないといけない。
では、具体的にどうするか、4つあります。まず一番即効力があるのは、経営者のメッセージだと思います。女性を活躍させることはわが社の戦略であるとトップがはっきり言うことです。だから女性を活躍させない上司である君の評価は低いよと、明確に言ってしまうことです。
2つ目は、トップはもちろん管理職は、男性の部下だけでなく女性の部下にも心の底から期待をするということですね。口先だけの期待というのは、女の人というのはうそを見抜く能力が非常に発達しているので、わかってしまいます。それで、「ああ、私期待されていない」と思ったら、「子どもも小さいですから、私そろそろ家に入ります」とか、あるいは「課長になりたいとは思いません」と言っちゃうんですね。なので、心の底から熱く期待をするということが大切です。
3つ目は、やっぱり「制度」だと思います、NTTグループも制度的にどんどん良くなっています。近年導入されたのは例えば再雇用。何らかの事情で配偶者の転勤などで会社にいられなくなったときには、マックス6年で戻ってきたらもとのポストを保証するというもの。それから育児休職中の人事考課です。昇格するにはAが続くとか直前の評価がAかBじゃなきゃいけないというようなルールがあります。だから、ある女性が一生懸命努力して、A評価が続いていてさあ昇格という年に、子どもを産んで育児休職をとったとすると、休職期間はCかD評価になるので、復帰してまたAがたまるまでやり直しになり昇格は遅れます。それを改めて、育児休職の期間のCやDはカウントしないことにしました。これは思い切った制度だと思います。
4つ目は、やっぱり運動論として何かタイトルがほしいということです。さきほど「働き方改革」の話をしました。会議の時間を短くするとか、休暇をもっととろうとか。残業を減らそうとか効率化しようとか、そういうときに、従来のよくも悪しくも男性が主に作ってきた日本の歴史的な仕事の仕方を一気に変革しようとすると摩擦が起こる。でも『「働き方改革」ですから!』と言われたら妙に納得感がある。摩擦を起こさないためには、運動論としてのタイトルも必要なんですね。
次に、女性たちへのメッセージですが、5つあります。
第一に、やっぱり自覚ですね。ともかくまだまだ日本の会社の仕事はチームプレーで動いているので、チームの一員であるという自覚を強く持ってほしいということです。
2つ目は、先ほど申しましたがチャンスが来たら絶対断らないこと。「はい、喜んで!」です。
3つ目は、いろいろ失敗があると、そのときには女性のほうが潔いので、もう負けたと思ったら、そのフィールドから立ち去ってしまうのですね。敗者復活戦は必ず企業にはあるので、決して退場しないで、もう見苦しいくらいにしがみついてほしいと思います。
4つ目は、人との出会いですね。いろんな場に、自分の時間を削ってでも参加していただきたいと思います。今日のこういう場もそうですけれども、いろんなソーシャルキャピタルの場に入ることも大事だし、人との出会い、それで人生が変わります。
最後に、自分を高めることを一つ、小さいことでも何でもいいので具体的に決めて、毎日練習してください。例えば1分間スピーチ。自分の言いたいことを1分間にまとめて言う訓練を毎日やってみる。実際にやってみた方から言われたことですが、あるときに自分の人事権を持っている人とエレベーターで出会って、1分間でしゃべったら、後日そのとおりになったと感謝されました。エレベータートーク、大切です。
がんばってください!
内海:今日、みなさんにお話をしていただいて、私が一番感じたのは、やはりトップのメッセージがしっかり下の人たちに届くかということだと思います。そして、その経営者が心の底から女性の力に期待して、会社を成長させようと心の底から思っていることが大変重要と思いました。今日の経営者のみなさんは本当に心の底から女性の力に期待して、そして会社の成長に結びつけようと考えていらっしゃる方ばかりでしたので、みなさんもその中から幾つかのヒントを得ていただけたのではないかと思います。
これでパネルディスカッションを終了いたします。
本日は最後までお聞きいただきまして、まことにありがとうございました。